北極圏の温暖化でシベリアのトナカイ遊牧が危機、数万頭餓死も
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【11月18日 AFP】温暖化が進む北極圏で海氷が消失し、ロシア北部の先住民集落が生活の糧としてきたトナカイの遊牧が脅かされていると警告する研究論文が16日、英国王立協会(Royal Society)の専門誌バイオロジー・レターズ(Biology Letters)に掲載された。この集落は先住民ヤマロ・ネネツ(Yamal Nenets)人たちが住むロシア北部に残った最後の先住民集落の一つ。
論文を発表したフィンランド・ラップランド大学北極センター(Arctic Centre of the University of Lapland)などの研究チームは、露シベリア(Siberia)西部における海氷の縮小が原因で2006年と13年に深刻な「積雪上の降雨(ROS)」現象が発生し、このためにトナカイ数万頭が餓死した可能性が高いと明らかにした。
「積雪上の降雨」とは、気温の急激な上昇によって雪が雨に変わる場合に発生する現象。雨は積雪を溶かさず、その上で氷結して氷板を形成するため、動物は地表の草などを食べられなくなる。
北極圏での温暖化進行とともに、こうした異常の発生年が増えれば、トナカイの遊牧を何世紀も営んできたヤマロ・ネネツ人たちが生活の糧を失う恐れがあると研究チームは警告する。
研究チームを率いたブルース・フォーブズ(Bruce Forbes)教授は17日、AFPの取材に、特に2013年のROS現象は「強烈で壊滅的」で、ヤマロ・ネネツ人の集落があるシベリア・ヤマル半島(Yamal Peninsula)ではトナカイ6万1000頭が餓死に追い込まれたと語った。同半島に生息するトナカイの5分の1以上が餓死した計算になる。
氷を迂回(うかい)するすべはなく、トナカイたちは100キロ以上も広がる氷上を進んでいくうちに次々に餓死していったと、フォーブズ教授は説明。新たな群れの形成には数年かかるという。このため、2013年のような年が増えれば、トナカイ遊牧に頼るヤマロ・ネネツ人に破壊的な結果がもたらされかねないと教授は指摘した。すでにヤマロ・ネネツ人たちは生計を漁業など他の手段に頼らざるを得なくなっているという。
しかし気候モデルによれば、異常気象現象は今後さらに激しさを増す可能性があるとされている。(c)AFP