【11月11日 AFP】ミャンマー出身の映画監督として唯一世界的にその名が知られているミディ・ジー(Midi Z、中国名:趙徳胤)氏(33)の作品が7日、母国で初めて上映された。数十年に及ぶ軍事政権から脱却したミャンマーにとっての「歴史的瞬間」になったと同監督はコメントしている。

 ミディ氏の作品『マンダレーへの道(The Road to Mandalay)』は、ヤンゴン(Yangon)で4日に始まった国際映画祭「メモリー! インターナショナル・フイルム・ヘリテージ・フェスティバル(MEMORY! International Film Heritage Festival)」の満員となった会場で上映された。

 同作品は、より良い生活を求めてタイに不法渡航するミャンマー人労働者2人の悲劇のラブストーリーだ。

 数多くの国際賞を受賞し、アカデミー賞にも作品がノミネートされたミディ氏だが、母国でこの作品を見せることには緊張を覚えたという。ミャンマーのシャン(Shan)州に生まれ、16歳のときに台湾に移住したが、その後も映画の撮影のために幾度となくミャンマーを訪問しており、当時の軍事政権に隠れて撮影を行ったことも少なくなかった。

 上映翌日にAFPの取材に応じたミディ氏は、「たった1度の上映かもしれないが、私にとってはとても重要で、歴史的な瞬間だった」とコメントし、「この国では50年以上にわたり、実情にリンクした状況を表現したり説明したりする作品を上映することができなかった」と続けた。

 ミャンマーの映画産業はかつては周辺地域の中で最も活気があったが、幽霊やジーンズまでもを禁じた前軍事政権の厳しい検閲の下で衰退した。

 2011年に民政移管が実現して以降は、規制が緩和され、アウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)氏が率いる新政権が検閲を撤廃することへの期待が高まっている。

 しかし現在も、政治や宗教、セックス、そして今だに大きな力を維持する軍部に対する批判はタブーとされ、今回の映画祭でも複数のシーンが検閲に引っ掛かった。『マンダレーへの道』でも、ラストシーンの一部で検閲官が映写機を覆い、その映像が観客から見えないよう隠された。また、同映画祭で上映された1956年の『ビルマの竪琴』でも物乞いの姿が検閲の対象となった。(c)AFP/Caroline HENSHAW