シリア内戦を逃れたアーティストたちの「悲しい」美術展
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【10月25日 AFP】シリアの首都ダマスカス(Damascus)中心部にある伝統的なカフェに若者たちが集っている。内戦がもたらした絶望と喪失をテーマにした美術展「そして彼らは去っていった」を見るためだ。そして、その場には自分の作品を紹介しているはずのアーティストたちの姿はない。
アーティストたちは5年におよぶ内戦から逃れ、安住の地を求めて欧州各地に散らばっている。彼らが作品を託したのは、この哀愁漂う美術展のキュレーター、ベルナール・ジョマー(Bernar Jomaa)氏(39)だ。
ジョマー氏は、彫刻シリーズの最後の作品を展示し終えると、その展示セクションを作家のサラ・ハティブ(Sara Khatib)氏(29)に見せるために、インターネット電話のスカイプ(Skype)にログインしてデンマークにつないだ。2012年に難民としてデンマークへ渡ったハティブ氏は、何千キロも離れた祖国で、自分の作品群が展示されているのを見て涙を流した。
「作品をデンマークまで持ってくることはできなかったし、そうしたいとも思わなかった。自分の一部をダマスカスに残しておきたかったから」と、ハティブ氏はAFPに語った。
内戦が始まる前のシリア人口2300万人のうち、今や半数が避難している。多くが国内避難民となっている一方で、500万人近くが周辺国や欧州へ逃れた。
ダマスカスの旧市街にある石造りの人気カフェ「ズィルヤーブ(Ziryab)」で開催された美術展では、今は国外にいるシリア人アーティスト15人による20点以上の作品が展示された。
「通常はアーティストたちがその場にいて、自分の作品について説明するものだ。しかし今は彼らの不在こそが、芸術家を含めて多くの若者がこの国を去っていったことの苦しみと痛みの大きさを物語っている」とジョマー氏は語る。
不安げに眉間にしわを寄せた、頭のはげた男性を描いたスケッチの隣には、青と緑の顔のない生き物が展示されている。そうした作品からは、疲れ切った悲しみが伝わってくる。
そこにはまた郷愁も漂っている。例えばある写真は、歴史あるダマスカスのバブ・トゥーマ(Bab Touma)広場が検問所だらけになる前の姿を捉えていた。
北部のアレッポ(Aleppo)のような他の主要都市と違い、ダマスカスは戦闘の多くを免れてきたが、物価の高騰と職の無さに若者たちは苦しんでいる。
カフェの一角には、疲れた表情で木の板に寄りかかっている女性の大きなモノクロ写真が飾られた。女性は目を閉じ、両手で頭を抱えていた。
この写真を撮影したフォトグラファーのラミ・スカイフ(Rami Skeif)氏(40)は、欧州へボートで渡る危険な旅に出た大勢のシリア人の一人だ。スカイフ氏は2015年末、妻と娘と欧州へ向かった。
「旅路の途中では、小さなボートに乗るしかなかった。最低限必要なもの以外、持っていくことはできなかった」と、スカイフ氏はスウェーデンからAFPのメール取材に答えた。「陸を越え海を越え、障害と危険に満ちた旅に作品は持ってこれなかった。だからシリアに残し、友人のベルナールに託した」
いつの日かシリアに帰りたいと言う。「幸せな表情をしたシリア人女性を撮影し、その展覧会に参加するために」(c)AFP/Maher Al -Mounes