【10月19日 AFP】抗生物質に耐性を示し、致死性がますます高まっている多剤耐性菌「スーパーバグ」との世界規模の闘いに、オーストラリアのタスマニア(Tasmania)島にのみ生息する有袋動物タスマニアデビルの母乳が助けとなる可能性があるとの研究結果が18日、オーストラリアの研究チームによって発表された。

 スーパーバグは、現在の抗生物質やその他の薬剤では治療が不可能な病原性細菌で、最近発表された英国の研究によると、2050年までに世界で最大1000万人がスーパーバグで命を落とす恐れがあるという。

 豪シドニー大学(University of Sydney)の研究チームは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や、強力な抗生物質のバンコマイシンに耐性を示すバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む耐性獲得菌が、有袋類の母乳に含まれるアミノ酸化合物(ペプチド)によって殺傷されることを発見した。

 研究チームがタスマニアデビルのような有袋類に着目した理由は、その生態にあった。有袋類は、生まれた子を親の腹袋に入れて子の発達を完了させる。

 子は、生まれた時点では十分に発達しておらず、免疫系も未成熟の状態だが、細菌でいっぱいの母親の腹袋の中で生き延びて成長する。

 英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に発表された研究に参加したシドニー大の博士号取得候補者のエマ・ピール(Emma Peel)氏は、AFPの取材に「これが、有袋類でこれらのペプチドを発展させた原因となっていると考えられる」と語った。

「有袋類は、他の哺乳類より多くのペプチドを持っている。タスマニアデビルでは、この種のペプチドが6種類発見された一方で、人間は1種類しか持っていない」

「その他の有袋類では、ダマヤブワラビーが8種類、フクロネズミが12種類のペプチドを持っていることが、他の研究で明らかにされている」と述べたピール氏は、コアラの母乳に関する研究がすでに開始されていると付け加えた。

 研究チームは、タスマニアデビルのゲノム(全遺伝情報)から関連するアミノ酸配列を抽出して「カテリシジン」と呼ばれる抗菌ペプチドを人工的に合成、これらが「耐性菌や他の細菌を殺傷する」ことを発見した。

 スーパーバグとの闘いで人間の助けとなる新たな抗生物質の開発に、有袋類のペプチドが利用される日が来ることを研究チームは期待している。

 世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン(Margaret Chan)事務局長は先月、スーパーバグの影響について、一部の科学者らが「緩やかな津波」と表現していると指摘、状況が「悪く、ますます悪化している」と警鐘を鳴らした。(c)AFP