ヒトラーをたたえた伝記は本人が自作か、英歴史家が指摘
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【10月9日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)総統に上り詰める以前のアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)を「ドイツの救世主」と紹介しイエス・キリスト(Jesus Christ)になぞらえたヒトラーの伝記が自作だった可能性があると、英スコットランド(Scotland)の歴史家が主張している。
問題の伝記は1923年に出版されたヒトラー初の伝記「Adolf Hitler: Sein Leben und seine Reden(アドルフ・ヒトラー:その生と演説)」。著者はビクトル・フォン・ケルバー(Victor von Koerber)とされているが、英スコットランド・アバディーン大学(University of Aberdeen)のトーマス・ウェーバー(Thomas Weber)教授(歴史・国際問題)は南アフリカの公文書館で、伝記の著者が「ほぼ確実に」ヒトラー本人であることを示す文書を発見した。発見はヒトラーの「厚顔ながらも自己宣伝の巧妙さ」を物語るものだという。
米ハーバード大(Harvard University)の客員教授も務めるウェーバー氏は、ヒトラーがナチスに傾倒していく経緯を調べた現在執筆中の自著のため南アフリカのウィトウォーターズランド大学(University of the Witwatersrand)を訪れ、フォン・ケルバーに関する文献を調べていて証拠となる文書を発見した。フォン・ケルバーは貴族出身で第1次大戦の英雄として名声を得ていたため、伝記の名目上の作者に選ばれたとウェーバー氏は考える。
ウェーバー氏が発見した証拠文書の一つは伝記出版者の妻による署名入りの供述書だ。この中で出版社の妻は、ビクトル・フォン・ケルバーは伝記の執筆者ではないと証言。また、ヒトラーが伝記の著者とするためにナチスとは一切関係のない保守的な人物を探してほしいとエーリヒ・ルーデンドルフ(Erich Ludendorff)将軍に依頼していたとも語っている。ルーデンドルフ将軍はヒトラーの盟友で1923年のミュンヘン一揆にも参加した人物。
さらにウェーバー氏はドイツで、フォン・ケルバーが伝記を執筆するようヒトラーに示唆した1938年付の文書を発見。そこに、伝記は「アドルフ・ヒトラーの主導と積極的な関与」によって書かれたと記されていた。
伝記はヒトラーの軍病院における「政治的な覚醒」に初めて言及したものだが、後に出版されたヒトラーの自著「わが闘争(Mein Kampf)」にも、これとほぼ同じ文言が登場する。
こうした発見を基に、ウェーバー氏は「現在、明らかになった数々の証拠の断片から組み立てた説得力ある全体像は、問題の伝記は『ドイツの救世主』としての自身のイメージを喧伝すべく書かれた『自伝』にほかならないというものだ。ヒトラーが早い段階から、既に抜け目なく人心操作に長けた政治的な策士だったことが分かる」と語った。(c)AFP