【9月25日 AFP】「アラーの名の下に異教徒を殺害しろ」──国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のメンバーたちにかつてそう命じていたジェシー・モートン(Jesse Morton)氏(38)は現在、別人となって反イスラム原理主義を訴えている。

 1年半前に釈放されたモートン氏は今、米ワシントン(Washington)のジョージ・ワシントン大学(George Washington University)で、イスラム過激派思想について研究している。

 ペンシルベニア(Pennsylvania)州出身の彼の子ども時代は厳しいものだった。母親に虐待され、助けてくれる人は誰もいなかった。社会が信じられなくなった彼は16歳で家を出て、ドラッグを売りながらストリートで暮らした。「帰属意識がもてず、アメリカ人としてのアイデンティティーも失っていた。何かを求めていた。何でもよかった」と当時を振り返る。

 モートン氏は結局、イスラム原理主義に傾倒し、アルカイダの勧誘係になった。しかし彼の物語は、イスラム過激派になったところで終わらなかった。彼は現在、過激思想から抜け出し、贖罪の人生を歩んでいる。

 モートン氏がイスラム教に改宗したきっかけは、厳格なイスラム教徒の友人と一緒に警察に取り囲まれた際、友人からアラビア語の言葉を唱えろと言われたときだった。意味も分からず、その言葉を唱えたら、警察に捕まらずにすんだ。彼が口にしたアラビア語は「神は預言者のムハンマドのみ」という意味だった。その後、バージニア(Virginia)州の刑務所に入った時に「本当のイスラム教徒」になったという。

 2001年9月11日の米同時多発攻撃の直後に釈放されたモートン氏は、「ユヌス・アブドラ・ムハンマド」と改名した。当時は同時多発テロを称賛していたという。

 2007年の終わりごろ、彼はアルカイダのメッセージをオンライン上で広める組織「レボルーション・ムスリム(Revolution Muslim)」の共同創設者となった。この組織の影響を受けたイスラム過激派の1人に、「ジハード・ジェーン(Jihad Jane)」の名で知られる米国人女性コリーン・ラローズ(Colleen LaRose)受刑者がいる。彼女は2009年にイスラム教の預言者ムハンマド(Mohammed)の風刺画を描いたスウェーデンの漫画家ラーシュ・ビルクス(Lars Vilks)氏の殺害を計画し、殺人未遂容疑で起訴された。

 2010年初め、モートン氏はモロッコへと逃亡したが、現地でも刑務所に入り、2011年10月に米連邦捜査局(FBI)に拘束された。

 過激派思想から転向するカギとなったのは教育だった。刑務所で独房にいた時、看守から夜間の図書館使用を許されたモートン氏は、仏思想家ジャンジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)などの啓蒙書を数多く読んだ。「(それらの本に書かれている)思想は普遍的で人間主義だということが分かり始めた。人々に自由になることを許していた」。モートン氏は今もイスラムの教えに従って日々の生活を送っているが、原理主義は否定している。

 FBIは、モートン氏がアルカイダ時代に得た知識や過激派の世界的なネッワークに関する情報に大きな関心を示した。そこで彼は刑務所の中からFBIに協力した。「FBIは市民を守ろうとしているのであって、イスラム教に戦争を仕掛けているのではないと気づかされた」。モートン氏が協力したことによって「多くの攻撃を未然に防ぐことができた」という。

 FBIへの捜査協力が認められ、モートン氏は刑期11年半のうち4年を終える前に釈放された。元イスラム過激派のメンバーがジョージ・ワシントン大学に雇用されるのは今回が初めてだ。(c)AFP/Anne RENAUT