フィリピン「麻薬撲滅戦争」、殺されるリスク冒してもやめない常習者
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【8月28日 AFP】フィリピン・マニラ(Manila)に暮らすあるペディキャブ(自転車タクシー)運転手は、同国のロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が麻薬撲滅の容赦ない戦いを宣言し、頭を銃で撃たれるかもしれないと恐れながらも麻薬が欲しくて素早く隣人の家に飛び込んだ。
ドゥテルテ大統領は6月の就任以前からフィリピン社会からの薬物撲滅を掲げ、就任直後には警察に麻薬密売人の射殺を命じ、一般市民にも麻薬中毒者の殺害を奨励している。
警察が発表した統計によると、麻薬関連で殺害された死者の半数以上は未確認の襲撃者に殺害されていることから、市民らの間で、治安部隊や殺害請負人らが各地域内を歩き回り、麻薬への関与が疑われる人物は誰でも射殺しているとの恐怖が広がっている。
ペディキャブの運転手が暮らすマニラのスラムでも常に武装警察が巡回している。それでも運転手は「シャブ」と呼ばれ常習性が非常に強いメタンフェタミンの吸引を止めない。ドゥテルテ大統領はメタンフェタミンについて、数百万の貧しいフィリピン人たちの命や生活を破壊していると非難している。
3人の子どもの父親でもあるこの運転手は、住民たちに少量の薬物を売っていた女性が、オートバイに2人乗りした覆面の男たちに頭部を撃たれて殺害されたのを目撃したという。こうしたバイクに2人乗りした正体不明の人物たちによる殺害は、麻薬関連での殺害手段としてよくある例の一つだ。
■「ボール紙の正義」
麻薬に関与していた疑いで殺害された人たちの遺体はしばしば、「麻薬商人」「麻薬常習者」などと書かれたボール紙が置かれて放置されることから、麻薬撲滅戦争は「ボール紙の正義」とも呼ばれるようになってきた。
フィリピン国家警察はこれまでに756人を麻薬関連容疑者として殺害したと発表。ロナルド・デラロサ(Ronald dela Rosa)長官は、殺害は警官たちが自らの身に危険が及んだ場合のみだと繰り返し、警官たちを擁護している。
しかしその一方で、刑務所内で死亡した父親と息子をめぐり、検視結果から2人は腕や脚が折れるほどの暴行を加えられた後に射殺されたことが判明し、警官2人が殺人罪で訴追されている。
フィリピン当局の麻薬取り締まりについて国連(UN)や人権団体などは法を無視した行為だと批判しているが、ドゥテルテ大統領やデラロサ長官は法規の範囲内であり、批判は麻薬危機によってもたらされる壊滅的な結果を理解していないと反論。原因不明の死者については、麻薬組織間の抗争によるものだと主張している。
■「体が欲しがる」
殺害が多発している状況や治安部隊らの巡回によってペディキャブの運転手が暮らすスラム街での麻薬売買は減少しているが、現在でも入手は可能だという。
13歳の時、最初に麻薬に手を出したというこの運転手は、麻薬を買いたければ道端に立っていればいいと話し、「誰かが近寄って来るからそいつに金を払えば、別の誰かが麻薬を届けてくれる」と語った。
常習者が麻薬を使うための「隠れ家」として部屋を提供する賃貸業も続いているという。
だが麻薬撲滅戦争の結果、麻薬の値段は倍になった。稼ぎのおよそ4分の1を麻薬につぎ込んでいた運転手は、自身の麻薬常習が家族に損害を与えていることは分かっていると話し、自分が殺されれば子どもたちには父親がいなくなってしまうとの恐れから「止めなきゃいけないと自分に言い聞かせる時もある」といいながら、こう語った。「それでも体が(麻薬を)欲しがるんだ」。(c)AFP/Cecil MORELLA