【8月19日 AFP】蚊が媒介するジカウイルスへの感染が、発育中の胎児だけでなく、成熟した脳神経細胞にも損傷を与える可能性があることを、マウス実験で初めて明らかにしたとする研究報告が18日、発表された。

 米科学誌セル・ステムセル(Cell Stem Cell)に発表された研究論文によると、先天異常の小頭症が急増した原因とされるジカウイルス感染によって、学習と記憶に関与する成熟細胞が破壊される可能性があるという。

 論文の共同執筆者で、米ラホヤ・アレルギー免疫研究所(La Jolla Institute of Allergy and Immunology)のスジャン・シュレスタ(Sujan Shresta)教授は「ジカウイルスが成熟脳に侵入し、大規模な破壊を引き起こす恐れがあることが明白となった」と話す。

 シュレスタ教授は、ジカウイルスが「初期の脳の発達に壊滅的な影響を及ぼす」可能性があることは研究者の間で知られているが、成人が感染しても何の症状も現れない場合が多いと続けた。実際に体調が悪化した人は、発疹、体の痛み、目の充血などの症状を訴える場合がある。

「ジカウイルスが成人の脳に及ぼす影響は、これ以上に捉えにくい可能性があるが、今回の研究によって何を探すべきかが分かった」とシュレスタ教授は述べた。

 研究チームは、神経前駆細胞に着目した。神経前駆細胞は未分化型の脳細胞で、後に分化してニューロン(神経細胞)になる。研究者らは、神経前駆細胞を脳の幹細胞と呼んでいる。

 ジカウイルスは、発育中の胎児の神経前駆細胞を攻撃して、頭部が異常に小さく、脳の損傷や機能障害などがある状態で生まれる新生児の小頭症を引き起こす可能性がある。

 成熟した脳は、神経前駆細胞がその性質を維持するための微小環境(ニッチ)を保有しており、学習や記憶に関係する脳の部位では、ここからニューロンが補充される。

 研究チームは、マウス実験で蛍光バイオマーカーを用いて、ジカ感染の影響を受けやすいように遺伝子組み換えを施した成体の神経前駆細胞が、ジカウイルスによって殺傷されることを確認した。

 ジカウイルスへの感染が、マウス成体幹細胞の増殖の4分の1から10分の1の低下に関連していることが、今回の研究で分かった。

 論文によると、記憶に関連する海馬を含む脳の2つの部位で、細胞死と、新生ニューロン生成の減少が起きている証拠が見つかったという。

 ジカウイルスへの感染が、成人の脳に対して長期的にどのような影響を及ぼす可能性があるかについては、不明なままだ。

 学習や記憶の回路に新生ニューロンを組み入れることが、適応や変化を行う脳の能力のカギを握っていることが、過去の脳研究から判明している。

 このプロセスが失われると、脳は次第に認知力低下に陥り、うつ病やアルツハイマー病などの疾患を引き起こす可能性がある。

 また、ジカウイルスは、衰弱やまひなどの神経系の問題を引き起こす恐れがあるギラン・バレー症候群と呼ばれる疾患との関連が指摘されている。

 通常はジカウイルス感染が治った後に発症するギラン・バレー症候群の患者発生は、成人の神経前駆細胞への感染に関連している可能性があると、シュレスタ教授は指摘した。(c)AFP