【8月1日 AFP】米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が、イラクで戦死したイスラム教徒の米兵の両親について行った発言が波紋を呼んでいる。米兵の父親は7月31日、トランプ氏を「邪悪な人間」と呼んで非難した。

 パキスタン系移民のキズル・カーン(Khizr Khan)さんは、先週の民主党大会で、2004年に派遣先のイラクで道路脇に仕掛けられた爆弾の爆発に巻き込まれて死亡した息子のフマユーン・カーン(Humayun Khan)陸軍大尉について演説。国のために「何一つ犠牲にしていない」とトランプ氏を批判し、喝采を浴びた。

 これに対しトランプ氏は30日、米ABCテレビの報道番組「ディス・ウィーク(This Week)」に出演し、自分も「たくさんの犠牲を払ってきた」「懸命に働いて何千、何万の雇用を生み出し、素晴らしい建物を建ててきた」と反論。カーンさんが妻と書いたと主張している演説の草稿について、民主党の対立候補ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)前国務長官が背後にいるのではないかと疑問を呈した。

 さらにトランプ氏は、カーンさんの妻ガザラ(Ghazala Khan)さんが共に党大会の壇上に立ちながら発言しなかった点を指摘。「恐らく、発言を許されていなかったのだろう」と述べた。

 この発言を受け、カーンさんは米CNNとのインタビューで、ガザラさんにも話すよう促したが気持ちが高ぶっていて無理だと断られたことを明かし、トランプ氏は米国の指導者に必要な倫理基準と共感が欠けていると非難。「彼は邪悪な心の持ち主だ。この美しい国の指導者には、まるでふさわしくない」と述べた。

 ガザラさんも米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)に寄稿し、悲しみに打ちひしがれていて言葉を発することができなかったと説明。「何も言わなくても、世界中が、全米の人々が、私の苦しみを理解してくれた」と記している。

 カーンさんは共和党のミッチ・マコネル(Mitch McConnell)上院院内総務とポール・ライアン(Paul Ryan)下院議長に対し、トランプ氏を非難し支持を取り下げるのが共和党指導部の「道徳的・倫理的責任」だと訴えた。マコネル氏とライアン氏は相次いで声明を出し、カーン大尉を英雄とたたえたが、トランプ氏への支持は取り下げなかった。(c)AFP/Jim Mannion