【6月23日 AFP】ハエの交尾と聞いて、情熱をかきたてられる人はそう多くないだろう。しかし、長年その研究に取り組み、その過程で人工的な不妊化による害虫駆除法を考案した米国の昆虫学者2人にこのほど、「当初は風変わりに見えながら社会に大きな影響を与えた」研究に贈られる米国の賞「ゴールデン・グース賞(Golden Goose Award)」が授与された。

 授賞したのは、ともに故人であるエドワード・ナイプリング(Edward Knipling)とレイモンド・ブッシュランド(Raymond Bushland)両氏。半世紀余り前、物笑いの種にされたり無駄遣いだと非難されたりしながらも、長期にわたって肉食性のラセンウジバエの交尾の解明に懸命に取り組んだ。

 両氏は研究過程で、ラセンウジバエやツェツェバエ、ネッタイシマカなど、病気を媒介する害虫の根絶に向けた「不妊虫放飼法(SIT)」と呼ばれる手法を考案。これは放射線で不妊化させた虫を生息地に放ち、不妊化した雄と雌を交尾させ、ふ化しない卵を産ませ、個体数を減らすものだ。

 ラセンウジバエは温血動物、特に牛の傷口に卵を産み付ける。幼虫のうじ虫は宿主の肉を食べ、2週間足らずで牛を食い殺すこともある。

 ゴールデン・グース賞の運営側の声明によると、ナイプリング、ブッシュランド両氏がこの研究を行ったのは1930~1950年代。第2次世界大戦(World War II)の影響で中断したり、嘲笑されたりしながらも、わずかな予算で行ったという。不妊虫放飼法のおかげでラセンウジバエは1982年までに米国から駆除され、以後ほかの多くの国でも根絶されている。

 ブッシュランド氏は1995年に84歳で、キプリング氏は5年後の2000年に90歳でそれぞれ亡くなっている。(c)AFP