【6月10日 AFP】マラリアやジカ熱などの昆虫媒介性の感染症と闘うために、遺伝子操作した蚊を野生に放つことは時期尚早で、意図しない結果を招く恐れがある。米国の最新報告書がこのほど発表された。

 全米科学・技術・医学の3学会からなる全米アカデミーズ(National Academies of Sciences, Engineering and Medicine)の共同議長を務める米アリゾナ州立大学(Arizona State University)のジェームズ・コリンズ(James Collins)教授は「われわれは、警戒を強く呼び掛ける。遺伝子組み換え生物の放出が招く科学、倫理、規制、社会などに関する結果を理解するためには、さらに多くの研究を重ねる必要がある」と述べる。

 全米アカデミーズは「遺伝子ドライブ」に関する調査を進めてきた。遺伝子ドライブは「遺伝形質の偏った継承」を発生させるシステムで、特定の遺伝形質が親から子に受け継がれる可能性を高めることができる。

 最新の遺伝子編集技術を用いると、遺伝子ドライブを通じて、個体群全体に改変遺伝子を急速に拡散させることができる。これにより、改変遺伝子が個体群に浸透する可能性が大幅に高まる。

 アカデミーズは、今回の報告書を発表するプレスリリースの中で、「実験室で開発した遺伝子ドライブについての予備調査は、酵母、ミバエ、蚊などの個体群のほぼ100%に目的の遺伝子を拡散させることが可能であることを示唆していた」と述べている。

 遺伝子ドライブ技術は、野生の蚊を標的として、デング熱、マラリア、ジカ熱などの感染症の媒介や拡散ができないよう遺伝子を組み換えるために利用される可能性がある。他方では、作物に被害を及ぼす害虫抑制を目的に農業分野での使用が考えられる。

 だが、こうした技術は、「標的以外の生物種を意図せずに壊滅させたり、より強靭な別の侵略性生物を台頭させたりする」など、予期せぬ破滅的な結果を招く恐れがあるとアカデミーズの研究者らは警告する。

 報告書は「遺伝子ドライブの使用は、遺伝情報を個体群全体に迅速に拡散させることを目的としているため、その影響を予測するのは困難。そのため予期せぬ結果が生じる可能性を最小限に抑えることが重要になる」として、さらなる調査や段階的な試験の実施、研究者間の協力関係強化などの必要性を指摘した。

 今回の調査で分かったことは、遺伝子ドライブで遺伝子操作した生物の実地試験および放出計画に関するリスク評価は、現行の規制では不十分であるということだ。

「2016年5月現在で、遺伝子ドライブで遺伝子操作した生物に対する生態学的なリスク評価はまだ一度も実施されていない」と報告書は指摘している。(c)AFP