【6月9日 AFP】ヒト卵細胞のDNAを別の卵細胞に移植するための、より優れた手法を開発したとする研究論文が8日、発表された。母親からの遺伝的悪影響のない胚の作製を目的とする技術だという。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された研究論文によると、「前核移植」として知られる既存の手法に改良を加えることで、疾患を引き起こす異常なDNAの量を、実験室で作製した胚で大幅に減らすことができたという。前核移植は「3人の親による体外受精(three-person IVF)」と呼ばれることもある。

 前核移植では、受精した卵細胞の核から、母親と父親の健康なDNAを抽出して、細胞核を除去したドナーの卵細胞に移植する。

 この受精卵とドナー提供の卵細胞には、それぞれミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官に存在する異なる種類のDNAが含まれている。ミトコンドリアDNAは、子に受け継がれ、多岐にわたる疾患の原因となる可能性のある変異を起こす場合がある。

 研究では、抽出された核DNAを健康なミトコンドリアDNAを持つドナー卵子に移植した。

 論文の共同執筆者で、英ウェルカムトラスト・ミトコンドリア研究センター(Wellcome Trust Centre for Mitochondrial Research)のメアリー・ハーバート(Mary Herbert)氏は「われわれが開発した技術は、自身の子どもにミトコンドリアDNA疾患が受け継がれるリスクを減らせる可能性を、保因者の女性に提供する」と述べた。

 専門家らは今回の研究について、疾患を引き起こすミトコンドリア変異がある女性にとって、体外受精法の安全性向上への著しい前進を示すものと評価している。

 推計値のばらつきが大きいが、筋肉、目、脳、心臓などに影響を及ぼす可能性のあるこの種の変異を先天的に持つ子どもの割合は、約5000人に1人と考えられている。現在のところ、有効な治療法は存在しない。

 母親と父親の両方から子に受け継がれる核DNAとは異なり、ミトコンドリアDNAは母親からのみ継承される。

 英国は昨年、ミトコンドリア異常のある女性の前核移植を合法化した世界初の国となった。

 ドナー女性64人から採取した卵細胞500個以上を用いた今回の研究では、既存の手順を微調整することで、突然変異のミトコンドリアDNAが伝達されるリスクが低下する可能性があることが示された。

 この微調整は、卵細胞を受精させた日の後日ではなく、その当日に実行するのが最も効果が高いことを、研究チームは発見した。また、患者の母親の卵細胞は凍結させ、ドナーの卵細胞は凍結させない方がより効果的だった。

 今回作製された胚は発育が禁じられたが、元の卵細胞にある変異したミトコンドリアDNAの2%足らずしか含有していないことを、研究チームは発見した。これは、安全性を考慮した基準値の5%を下回っている。

「現在進行中のわれわれの研究は、病気を遺伝させるリスクをさらに低下させることを目的に、体外受精技術の改良に重点を置いている」と、ハーバート氏は話した。

 今回の研究結果は、英政府直轄の不妊治療に関する監督機関「ヒト受精・胚機構(HFEA)」の専門委員会に提示される予定。これによりHFEAは、初の認可を医療機関に交付するかどうかを決定しなければならない。(c)AFP/Mariëtte Le Roux