【6月9日 AFP】南米チリで観測を行っている天文学者チームは8日、地球から約10億光年の距離にある「超大質量」ブラックホールが、ガス雲をのみ込もうとする様子を捉えることに史上初めて成功したと発表した。

 国際研究チームは、チリ・アタカマ砂漠(Atacama Desert)にある巨大電波望遠鏡「アルマ(Atacama Large Millimeter/submillimeter ArrayALMA)」を使用して、時速130万キロの速度でブラックホールの方向に流れている3つのガス雲を発見した。

 欧州南天天文台(ESO)が発表した声明によると、主に一酸化炭素(CO)から成るこれらのガス雲は、超大質量ブラックホールから「わずか」300光年しか離れておらず、「天文学的に言えば、本質的に、むさぼり食われる瀬戸際にいる」のだという。

 マイクロ波スペクトルによる今回の観測は、ブラックホールがガス雲をのみ込むとする説に、史上初の直接的証拠を提供するものだ。

 研究に参加した英カーディフ大学(Cardiff University)のティモシー・デービス(Timothy Davis)氏は、「超大質量ブラックホールにのみ込まれつつあるガス雲の証拠を目にすることができた。まるで夢のようだった」と話す。

 デービス氏は、AFPの電話取材に「この観測により、それら(超大質量ブラックホール)が何をのみ込み、どのように進化したのかについて、さらに多くの情報が得られる」と話した。

 研究者らは、ブラックホールを直接観測することが不可能なため、周囲の天体の動きからその存在を推察している。

 今回の観測は、偶然のたまものだった。研究チームは、銀河の中で生まれる星の数を測定しようとしていた最中に、これらのガス雲を発見した。

 デービス氏は、ブラックホール自体からの放射は何もないが、物質がブラックホールに落下する際に、その物質は非常に高温となり多くの光を放つと説明。「観測では、ブラックホールを背景光源として利用する」と続けた。

 そして「観測されるのは、ガス雲がブラックホールとされるものに落下する際にできる、ガス雲そのものの影だ。ガス雲は地球とブラックホールの間にあるため、ブラックホール周辺の物質から放たれるこの光の一部を遮る」と付け加えた。(c)AFP