【5月31日 AFP】北大西洋(North Atlantic)から流れる深層の寒流が、南極への地球温暖化の影響を弱め、海水面上昇のペースを遅らせているとの研究結果が30日、発表された。

 英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)」に掲載された研究論文によると、厚さが最大4キロに及ぶ氷に覆われた雪の大陸、南極のこの氷のように冷たい「断熱材」の効果は、数百年にわたって持続する可能性があるという。

 今回の結果は、海抜の低い地域に住む数億の人々にとっては朗報だ。海水面が2100年までに最大で1メートル上昇し、それらの人々が脅威にさらされる事態が、国連(UN)の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した最新報告書で予測されていたからだ。

 最近の研究では、水温上昇に伴う表層海水の膨張に加えて、氷河群や2つの巨大な氷床からの流出水によって、海水位がさらに上昇する可能性があることが示唆されている。

 巨大氷床の一つは、グリーンランド(Greenland)の上にあり、もう一つは西南極(West Antarctica)にある。広大な南極大陸のごく一部である西南極は、残りの部分より速いペースで温暖化が進行している。

 東南極(East Antarctica)の融解が同様のペースで進行すれば、世界中の海岸地帯にある人間の居住地には壊滅的な影響が及ぶと考えられる。

 過去半世紀にわたって気候変動が南極海(Southern Ocean)に及ぼした影響については、進行のペースがほかの地域の海洋に比べてはるかに遅いことが、科学者らの間で長年知られている。

 また、その理由も科学的に判明している。南極大陸の氷床が圧倒的な広大なこと、太陽光の反射率が高い海氷が大陸を囲んでいること、大陸を巡る風と海流が緩衝地帯のような機能を果たしていることなどが、理由として挙げられている。

 だが、今回の最新研究では、深層海流のベルトコンベヤーに重要な役割が割り当てられている。この海流に乗って、水温ほぼ1度の氷のように冷たい海水が北極地方から運ばれる。

 論文の主執筆者で、米ワシントン大学(University of Washington)の研究者のカイル・アーマー(Kyle Armour)氏と研究チームは「南極海で温暖化を減速させている第一の原因は、背景に存在する海洋循環だ」と論文に記している。

 海流の動きは、速やかではない。南極大陸の周囲で現在、深層から湧き上がっている海水が、北から南への大西洋横断の旅を始めたのは、産業革命の黎明(れいめい)期以前のことだと、論文は指摘している。

 だが、その効果は今後も持続していく。

 地球上の他の地域で干ばつ、巨大暴風雨、異常気象などの発生を後押ししている温室効果ガスが今後、南極海に深刻な影響を与えるのは、ほんの「数百年の時間スケール」の間だけだと、研究チームは結論付けている。(c)AFP