■怒りを利用

 2015年6月16日にトランプ氏が大統領選に立候補すると発表した時にはほとんど注目を集めず、共和党員の3分の2は同氏に絶対投票しないと断言していた。

 しかし、3週間後にトランプ氏がメキシコ人移民は犯罪者や婦女暴行犯だと決め付けると大論争になり、これが「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」(トランプ陣営のキャッチフレーズ)にすることを目指す型破りな選挙戦の始まりとなった。メディアは取りつかれたようにトランプ氏の動向を伝え、熱狂の火に油を注いだ。

 元リアリティー番組スターで莫大(ばくだい)な富を誇示するトランプ氏は、逆説的だが、移民問題や自由貿易、やると言ったことをやらない政治家たち(トランプ氏は、自身の指示を実行させるため政治家たちに金を払ったとさえ公然に認めた)を批判し、不満を抱いている白人労働者層の怒りを利用した。

 当初は冗談として、それから一過性の現象として扱われたトランプ氏だったが、世論調査の支持率がわずか3%の状態から候補者17人のトップに躍り出た。

 伝統的な保守派の多く、特に学士号より上の学位を持つ人は、トランプ氏の立候補に依然として激しく反対している。しかし、それにもかかわらずトランプ氏は共和党有権者の半分以上の支持を集めた。

 今やトランプ氏の人気は典型的なイデオロギーの壁を超越している。保守派でありながら穏健派で、熱烈な資本主義者でありながら自由貿易を酷評し、米国人の社会保障制度には手を付けないと約束しながら銃を持つ権利を支持している。「一貫した保守思想がトランプ氏の支持者を動かしているとは思えない。彼らを動かしているのは怒りだと思う」とサーバー氏は言う。

 またフーダック氏は、米国の右派に潜む外国人への恐怖もトランプ氏の成功に一定の役割を果たしたと指摘する。トランプ氏の集会では支持者の白人と批判する黒人やヒスパニック系の間で暴力沙汰が起きたこともあったが、トランプ氏はそのような小競り合いを暗黙のうちに是認していた。