精神疾患につけ入るイスラム過激派、専門家ら指摘
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【5月13日 AFP】いわゆる「一匹狼」的なテロリストと精神疾患との関連性は、精神的に不安定な人々はニュースで報道された出来事に影響を受けやすく、このことを世界のイスラム過激派たちが利用しているという事実によって成立すると専門家らが指摘している。
10日に独ミュンヘン(Munich)でドイツ人の男(27)がナイフで襲い掛かり、1人が死亡、3人が負傷した事件では、男が「アッラー・アクバル」(アラビア語で「神は偉大なり」の意)と叫んでいたという。しかし警察は早い段階で、男とイスラム過激派とのつながりがあった可能性を排除し、男が「正気を失った状態」で犯行に及んだと信じるに足る「強力な理由」があると述べた。
同様の例は、2014年12月の豪シドニー(Sydney)のカフェでの立てこもり事件や、同年10月のカナダ連邦議会襲撃事件など、世界で多数報じられている。
専門家らは、こうしたつながりは想定外ではないと語る。なぜなら、深刻な精神疾患を抱える人の中には疎外感や自分が迫害されているという被害妄想を持つ人もおり、イスラム過激派の思想はこうした人々の感情を操るために説得力のある言葉で語り掛けるからだ。
イスラム過激派とされる人物らの裁判で鑑定人を務めた経験のある精神分析医のダニエル・ザグリー(Daniel Zagury)氏は、妄想行為は時代とともに変化すると語る。「今日では、『アッラー・アクバル』という言葉が、彼らの行動に神秘的で救世主的な意味を与えている。車で人混みに突っ込んだり、見知らぬ人々を刃物で刺したりする者がいるのはそのせいだ。ニュースが彼らの統合失調症や誇大妄想を助長している」
ザグリー氏は、イスラム過激派の全てが精神的に不安定だとみなすことには警鐘を鳴らしており、そうした例は全体の約10%にすぎないと指摘している。逆に大半はしがない不良で、薬物の中毒者や売人から始まった者たちが、人生を清算しようとしたときにイスラム過激派に転向した場合が多いという。他方、最も危険なのは、健全な生活を送っていた高学歴の若者が、暴力的な過激主義の真の信奉者となる場合だという。
しかし、真の信奉者と精神不安定の境界は曖昧(あいまい)なことが多く、イスラム過激派らの複雑な心理プロセスをひもとく包括的な心理学的研究はほとんど行われたことがない。
臨床心理学者のアメリ―・ブコブザ(Amelie Boukhobza)氏は「こうした人々は不安定だとわれわれは言いがちだが、適切な調査が必要だ。それぞれのケースは異なる」と述べている。
仏ソフィア・アンティポリス大学(Sophia-Antipolis University)の精神分析学者、パトリック・アモワイヤル(Patrick Amoyel)氏は、ISは常に無差別テロを呼び掛けることに効果があることを理解しており「メディアに出れば出るほど、過激思想の影響を受けやすい人々の反応を得やすいことを分かっている」と述べた。(c)AFP/Michel MOUTOT