【5月12日 AFP】蚊が媒介する感染症のジカ熱を引き起こすジカウイルスが、血流に乗って移動し、胎盤内で増殖して胎児の脳に侵入し、発育不全や死亡の原因となる過程をマウス実験で確認したとする2件の研究報告が11日、発表された。

 米医学誌セル(Cell)と英科学誌ネイチャー(Nature)にそれぞれ掲載されたこれらの研究は、ジカ熱への科学者の理解を向上させ、予防ワクチン開発につながると期待されている。

「ジカウイルスの子宮内感染を動物実験で初めて実証した。経過や結果の一部は女性や幼児にみられるものと一致する」。セル誌に掲載された研究論文の共同上席著者で、米ミズーリ(Missouri)州セントルイス(St. Louis)のワシントン大学(Washington University)のマイケル・ダイアモンド(Michael Diamond)教授(医学・分子微生物学・病理学・免疫学)は、このように述べた。

■セル誌の研究

 この研究では、ブラジルで流行中のジカウイルスと97%類似したウイルス株にマウスを感染させた。ブラジルでは昨年以降、頭部が異常に小さく脳が変形した状態で生まれる先天異常の小頭症の新生児が1000人以上確認されている。

 ジカウイルスを撃退する能力を持たないよう遺伝子組み換えを施した妊娠マウスを使用した実験では、胎児の大半が1週間以内に死に、生まれた子にも重度の発育不全がみられた。一方、遺伝子的に正常なマウスを用いた別の実験では、胎児は死ななかったが、発育不良と神経損傷が確認された。ジカウイルスの遺伝物質は、脳の発達に重要な時期とされる妊娠16日目になっても胎児の体と脳に残存していた。

 いずれの実験でもマウスは小頭症を発症しなかったが、研究チームではヒトとマウスの生物学的な違いによる可能性を指摘。むしろ、胎児に栄養を供給する胎盤内で、ジカウイルスがどのように広がるかに注目した。マウスの胎盤内のジカウイルス濃度は、妊娠マウスの血中ウイルス濃度の1000倍に達していた。

「ジカウイルスは、まず胎児血管の内膜に、次いで血液中に確認された。その後間もなく脳まで到達できることも確認した」と、論文の共同上席著者でワシントン大医学部のインディラ・マイソアカー(Indira Mysorekar)氏は説明している。

■ネイチャー誌の研究

 これとは別に行われた研究では、中南米で流行しているジカウイルス株と野生種マウスを使った実験で、やはりジカウイルスが胎盤から胎児に侵入し、回復困難な神経損傷を引き起こす可能性が示された。さらに、培養したヒト脳細胞にブラジルで1200件の感染例を引き起こしたとされるジカウイルス株を感染させたところ、ウイルスは神経細胞を攻撃して損傷させ、成長と正常な発達を阻害した。

 論文の上席著者でブラジル・サンパウロ大学(University of Sao Paulo)のジャンピエール・ペロン(Jean-Pierre Peron)氏は、これらの実験結果について「治療法のアイデアを一部検証したり、ウイルスの改良・抑制が可能なワクチンや薬剤を試験したりする基盤」として活用できると指摘している。

 また、ダイアモンド教授は今回発表された2件の研究について、共に「出生異常や先天性形成異常を引き起こす要因としてはジカウイルスさえあれば十分で、その他の外的・環境的その他の因子を発動させる必要はない」ことを示していると語った。(c)AFP/Jean-Louis SANTINI with Marlowe HOOD