【5月9日 AFP】寺院や廟にもうもうと立ち込める線香や紙銭の煙――台湾でお馴染みのこうした参拝風景が、過去のものになるかもしれない。大気中に有害粒子が大量放出され、環境にも参拝者たちの健康にも悪影響を及ぼしている恐れが指摘されているのだ。

 祭礼的な雰囲気を犠牲にして代替策を取る寺院も出始めている。台湾最古・最大の道教寺院の一つ、中部・彰化(Changhua)市の「南瑶宮(Nan Yao Gong)」では、爆竹を鳴らす代わりにCDで音だけを流し、参拝者にも煙を出さずに音を鳴らす方法として手を叩くよう推奨している。

 一方、台北(Taipei)にある人気の道教寺院「行天宮(Hsing Tian Kong)」は、線香を廃止し、手だけを合わせて祈るよう参拝者に求めている。また、煙を排出しない策として、紙銭や供物を公共の焼却炉で燃やしている寺や廟もある。

 新北市(New Taipei City)では灯篭流しの灯篭が河川汚染の原因になっているとの指摘から、寺院の外壁に描いた灯篭で代用しているところもある。

■祭り期間にPM2.5が急増

 台湾中部では4月、航海と漁業の守護神「媽祖(まそ、Mazu)」の像を9日間かけて運ぶ祭り「媽祖巡礼」が行われたが、台湾当局によれば巡礼路の各所に設置された爆竹のため、微小粒子状物質「PM2.5」が世界保健機関(WHO)の基準値の60倍を超えた。

 環境保護団体からは、線香や紙銭を燃やした際にベンゼンやトルエンなどの有害化学物質が発生していると危険を指摘する声も出ている。

 しかし、納得できない参拝者も少なくない。台湾の伝統思想では、爆竹や線香の数が多ければ多いほど信仰が厚いとされ、運が上がると信じられているためだ。

 爆竹を中止した台中(Taichung)市にある「大甲鎮瀾宮(Dajia Jenn Lann Temple)」のフェイスブック(Facebook)公式ページには、「中国から流れてくるスモッグのほうがずっと深刻だ。大気汚染の原因は参拝にまつわる行為だけじゃない」とのコメントが投稿されていた。(c)AFP/Amber WANG