パン店主の命を救った仏ホームレス男性、後継者に大抜てき
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【5月6日 AFP】フランス東部ドル(Dole)のパン職人、ミシェル・フラマン(Michel Flamant)さん(62)は、「人はパンだけで生きるものではない」という聖書の言葉を誰よりもしみじみとかみしめている。きっかけは、経営するパン店の前で物乞いをしていたホームレス男性に命を救ってもらった体験だった。
フラマンさんは、命の恩人となったジェローム・オーカン(Jerome Aucant)さん(37)に感謝の気持ちを込めて、自分の店を譲渡することにした。対価はわずか1ユーロ(約120円)。形式的な売買契約だ。
タンクトップにショートパンツという軽装でパン焼き窯の熱気をやり過ごしながら、恰幅(かっぷく)のよいフラマンさんは、昔から「欲張りな性格」だけれど心は広い方だったと語った。事実、一酸化炭素中毒で生死の境をさまよった昨年12月の「運命の日」のずっと以前から、フラマンさんは毎朝のあいさつと共に、1杯のコーヒーとクロワッサン1つをオーカンさんに差し入れていたという。
「あの日、ジェロームがいなかったら、とっくにあの世に行っていただろうね」。故障したオーブンから無臭の有毒ガスが漏れ出したときのことを振り返り、フラマンさんは言った。フラマンさんの足元がふらつき始めたのに気が付いたオーカンさんは、すぐさま救急通報したのだ。
結局、12日間の入院を余儀なくされたフラマンさん。退院して仕事を再開するに当たり、アルバイトとして働いてみないかとオーカンさんに声を掛けた。そして程なく、タトゥーを入れたドレッドヘアのオーカンさんがひたむきに働く姿に感服した。
「何せ、私は注文の多い人間なものでね。仕事は必ず私の言った通りにやってもらわなきゃ気が済まないんだ!」と、フラマンさんはオーブンのトレーにバゲットを並べながら、白髪を揺らして笑った。オーカンさんのように「忠告に耳を傾けられる賢さを備えた」人に教えるのが好きなのだという。
フラマンさんは深夜から翌日正午まで店の地下でパンやクロワッサン、焼き菓子を作る。焼き上がった商品を妻が1階の店舗で売る。休みは週1日だけだ。