【4月14日 AFP】ヒトの受精卵の遺伝子を改変したとする論文を発表した中国の遺伝子研究チームは13日、この論文が物議を醸していることを受けて、倫理的な懸念から高度な研究を先延ばしすべきではないと反論した。

 中国の広州医科大(Guangzhou Medical University)の研究チームは先週、ヒトの細胞内で人工的に変異を誘発する遺伝子編集技術「クリスパー(CRISPR)」を用いて、AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)の原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への耐性を持たせたとする研究論文を米国の生殖医学会誌「Journal of Assisted Reproduction and Genetics」に発表した。

 ヒトの受精卵の遺伝子編集はこれまでに、今回の研究を含め世界で2件しか報告されていない。

 批評家らは、原理を証明するための実験だとする同研究について、医学的理由が欠如した不必要なものであり、危険性をはらむヒトのゲノム編集の倫理的意味を拡大解釈しないよう強く警告した。

 研究が行われた病院が発表した声明の中で、研究チームはこうした懸念を一蹴し、遺伝子編集による将来の疾病治療市場の「計り知れない」大きさ重視を表明。最も重要なのは、信じる道をひたすら進んで研究を全うし、独立した知的所有権を獲得することであり、他人に従う必要はないと述べた。その上で、こうした忍耐力が「国際社会での地位」確保につながるとしている。

 論文の主執筆者であるファン・ヨン(Fan Yong)氏は、中国の国営英字紙・環球時報(Global Times)に対し、「この分野のルールを作るのは、先駆者だ」と語った。

 また、中国の国立遺伝子研究センター(National Center for Gene Research)所長は同紙に対し、遺伝子変異を原因とするがんなどのあらゆる病気に対してこの技術が持つであろう治療的有用性は、いかなる良心の呵責(かしゃく)をも上回るとの見方を示し、他の国々の倫理的スタンスに追随するのではなく、中国は独自の基準や規定を設けるべきだと述べた。

 広州医科大の研究では、不妊治療に使うことのできない異常な受精卵が使用され、同大学の倫理委員会から承認も受けていた。受精卵26個のうち4個の改変に成功したが、その一方で予測しなかった変異も多数みられ、3日後にすべての受精卵を破棄したという。

 生殖医学会誌によると、研究の目的は、ヒトの初期の受精卵の遺伝子を狙い通りに改変するために、技術を評価し原理を構築することだったという。

 ヒトの受精卵の研究についての規定は国によって異なり、国際的なコンセンサスはない。(c)AFP/Becky Davis