【4月7日 AFP】80代も後半になれば、家で暖かいカーディガンでも羽織ってのんびりくつろいでいたいと思う人が大半だろう。だが東京の杉浦輝夫(Teruo Sugiura)さん(86)は違う。週に数日、シルバー人材センターの作業所に通っては、障子の修理に精を出している。

 さほど実入りの良い仕事というわけではないが、それでも20年続けている。日本に数百万人いるとされる、定年退職後も働き続ける高齢者の一人だ。

 かつては百貨店で菓子の営業をしていたという杉浦さんが今も働き続けているのは、健康維持のためだという。「家の中にいてじっとしていたら何にもならないし、ここに来て仕事をしていれば、その分だけ楽しみがある」

 近年、日本では高齢の労働者が至る所で活躍している。工事現場の交通整理員やレジ係はもちろん、自分よりさらに高齢のお年寄りの介護に従事する人もいる。

 日本の65歳以上のうち、働き続けている人は2割を超える。これは先進国の中でも最多の割合だ。若い労働力人口が減り、急速に進む高齢化で社会保障への圧迫がますます強まる中、働く高齢者はさらに増えると見込まれている。

 今年2月の失業率は過去20年で最低レベルの3.3%と、多くの欧米諸国からすれば垂涎(すいぜん)ものの低さを誇るなど、求人需要は十分にある。

 高齢化に伴い、政府は定年や年金受給開始年齢を徐々に引き上げている。政府は企業に対し、従業員の雇用年数の延長や、高齢者の雇用を推進している。これを受けて自動車大手ホンダ(Honda)は2016年度から定年を5年先送りして65歳にすると発表。適用対象となる従業員は数万人に上るとみられる。

 慶応義塾大学(Keio University)の清家篤(Atsushi Seike)学長はAFPに対し、高齢者の雇用を維持するよう求める市場からの非常に強い圧力が存在すると指摘。企業側は大手も含めて、高齢の従業員数を増やすことに積極的で、この傾向は今後さらに加速するとみている。

 高齢の労働者のうち50万人以上が、政府が助成する全国シルバー人材センター事業協会(National Silver Human Resources Center Association)からの業務を受けている。

 働き続ける理由はそれぞれだが、心身の健康を理由に挙げる人は多い。シルバー人材センターから支払われる配分金は、平均で月3万7000円と決して高くはないが、それでも小遣い銭にはなる。

 だが、このわずかな報酬が、今後の生活の「支え」になっている人もいる。センターで働いているある女性は、将来、医療体制の整った介護施設に入る時のために、稼いだ金を大切に貯金している。こうした施設の利用料は30万円近くかかり、自分と夫の年金だけでは、「とても足りない」のだという。(c)AFP/Daniel LEUSSINK