【3月16日 AFP】冷戦時代、共産主義国だった旧ドイツ民主共和国(東ドイツ)の民間人に対して、西側の大手製薬会社が数百の臨床試験を実施していたとする調査報告書が15日、発表された。

 当時、財政難に陥っていた旧東ドイツへの外貨供給手段として策定されたこの計画に関する報告については、長らくその発表が待たれていた。同計画については、2013年に独週刊誌シュピーゲル(Der Spiegel)が糾弾しており、今回の報告では、その内容の一部が確認されている。ただし、実施規模は考えられていたよりもかなり小さく、また倫理違反が蔓延していたとの疑惑は否定されている。

 独シャリテ大学病院(Charite)はこのほど、1980年代に旧ドイツ独市民を対象に実施された臨床試験320例を確認した。医史学者のフォルカー・ヘス(Volker Hess)氏率いる研究チームは、1961年から東西ドイツ再統一の1990年までの間に、西側の制約会社が東ドイツの市民に対して行った最大900の研究例の証拠を発見したという。

 その一方、ヘス氏は報道陣に対し、これらの研究は当時の法基準に従ったものであったようだとし、「現在の私たちからは倫理的に疑わしく見えるものもあるが、それは当時の東ドイツだけに当てはまるものではない」と述べ、また「合意に関する(当時の)現行規則に対する組織的な違反を示唆するものはない」とも語っている。

 臨床試験を行った製薬企業は、当時の西ドイツを中心にスイス、フランス、米国、英国などの計16か国75企業で、バイエル(Bayer)やファイザー(Pfizer)、ロシュ(Roche)といった大手も名を連ねていた。

 しかし報告書は、こうした西側の企業が、より安く臨床試験を行うための被験者を求めて「鉄のカーテン」の反対側(共産圏)に目を向けたとする憶測を否定している。それよりも、厳格な中央集権体制が敷かれていた旧東ドイツについては、批判的な世論の目に触れずに、迅速に試験を終わらせることのできる効率的な試験場とみなされていたと結論付けた。

 調査結果についてヘス氏は、「製薬会社が全体主義に便乗していた」ことを指摘。さらに、当時の慢性的な医薬品不足に乗じて、試験薬を提供していたとも説明している。

 旧東ドイツの秘密警察シュタージ(Stasi)は、特にこれらの研究に関心を示し、監視を行っていたとされ、そして、傘下の機関が西側企業との契約交渉に乗り出していたという。

 シュピーゲル紙は2013年の報道で、大手製薬会社が80年代に旧東ドイツで、血圧治療薬や抗うつ剤を含む約600の臨床試験のために5万人以上を「人間モルモット」にしたと告発。記事では、被験者の多くは事前に説明を受けておらず、中には臨床試験の結果亡くなった人もいると報じていた。しかし、こうした疑惑について今回の報告書は異議を唱えている。(c)AFP