【AFP記者コラム】サン・マルタン運河の底ざらい、仏パリ
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【2月13日 AFP】これは仏パリ(Paris)の最先端のトレンディー地区の一つで、10~15年に1度、繰り広げられる儀式だ。何のことかと言えば、清掃と修繕作業のために、サン・マルタン運河(Canal Saint-Martin)がすっかり空にされるのだ。
この運河はパリで最も愛されるスポットの一つ。パリ10区の河岸には、しゃれたレストランやバー、カフェが立ち並び、20代から50代までさまざまな人々でにぎわう。週末の夜にはパリ全域から多くの人々が集まってくる。晴れあがった暖かい日には、外でランチを楽しむ人たちで文字通り両岸が埋め尽くされる。夜、特に天気のいい日に川沿いを歩けば、街の喧騒の余韻が漂う川辺に座り、会話を楽しんだり酒を飲んだりしている人たちを見かける。
そんな運河の水がすべて抜かれるときは、川底に眠っていた物を目にする大きなチャンスだ。結果、人々が集うお気に入りの場所は、お気に入りのゴミ捨て場でもあることが分かった。
水が抜かれ水面が低くなるにつれ、この数年の間に皆が捨ててきた驚くほどいろいろな物が姿を現した。私が最も驚いたのは「ベリブ(Velib)」と呼ばれる、パリ市内を無料で移動できるレンタサイクルの自転車がいくつも出てきたことだった。
他にスクーターもあったし、新車同然のバイクもあった。
人々はなぜ、こうした物を運河に捨てるのか?酒を飲みすぎた末に何かを投げ捨てた者もいるだろうし、保険金が欲しくてそうした者もいるだろう(彼らはこの運河が定期的に排水されることを知らないのだろう)。自動車はなかった。運河の水位は車がすべて隠れてしまうほど深くないからだ。たまに捨てられていても、すぐに吊り上げられて撤去される。
もっと変わった物といえば、ほとんど化石化していたスーツケース。便器やスーパーのカートもあった。それから何千本というボトル。日夜、土手でピクニックをしていた人たちが、自分たちの痕跡を残さずにはいられなかったのだろう。
この清掃作戦でもう一つ見ものだったのは、運河に住んでいる魚を捕獲してリリースする作業だった。市の職員やボランティア十数人がゴム長靴をはいて、よどんだ水の中を歩いた。水中に電流を流す棒を持つ係、電流を受けて浮き上がってきた魚を捕まえる係。魚は車に乗せられ、放流場所へと運ばれていった。
清掃作業の最上の「戦利品」の一つは、重さ16キロのコイだった。巨大なコイを網に入れた男性がパリの街中を走る様子は、フォトグラファーにとって最高のシャッターチャンス。まさに私たちが求める非現実的なシーンだ。
運河の清掃が始まってから毎日、私は土手を歩き、何か面白い写真が撮れないかと狙っている。とても楽しいし、フォトグラファーとして働き始めた1980年代にも同じようなことをしていたのを思い出す。
野次馬は私だけではない。空になった運河を見に、たくさんの人が来ている。私のようなプロのフォトグラファー、写真学校の生徒たち、遠足に来た子供たち、退職した高齢者──みんなパリで人気の運河の底に何が眠っているのか、見物に来ているのだ。 (c)AFP/Patrick Kovarik
このコラムはパリを拠点とするAFP写真記者パトリック・コバジークがロラン・ド・クルソンと共に執筆、ヤナ・ドゥルギが英訳し、1月11日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。