【12月15日 AFP】藻に含まれる毒素が、海洋動物のアシカを記憶喪失に陥らせている可能性があるとの研究結果が14日、発表された。米カリフォルニア(California)州沿岸では、年間数百頭ものアシカが方向感覚を失い、異常行動を起こして海岸に打ち上げられている。

 米科学誌サイエンス(Science)に発表された研究成果によると、海洋性の藻によって自然に生成される「ドーモイ(ドウモイ)酸」として知られるこの有毒物質は、アシカの方向感覚やえさ場を記憶する能力を阻害する可能性があるという。

 ドーモイ酸は、藻を海水からこして摂取する甲殻類や貝類、カタクチイワシなどの小魚類の体内に蓄積する。アシカがこれらを食べると、高濃度の毒素による影響を受ける可能性がある。

 米カリフォルニア大学サンタクルーズ校(University of California, Santa Cruz)、同大デービス校(University of California, Davis)、海洋哺乳類センター(Marine Mammal Center)などの科学者チームによる今回の研究は、カリフォルニアアシカに対して行った脳スキャン検査と行動試験に基づくものだ。

 カリフォルニア大サンタクルーズ校の元大学院生で、現在は米エモリー大学(Emory University)に所属するピーター・クック(Peter Cook)氏は「今回の研究は、有毒物質にさらされたアシカの脳ネットワークに起きた変化に関する初の証拠であり、アシカが空間記憶の障害だけでなく、広範囲に及ぶ記憶障害を起こしている可能性があることを示唆するものだ」と語る。

 カリフォルニア沖での有毒藻類の大発生は、春と秋に起きることが多いが、近年ますますその被害規模と発生頻度が拡大している。

 クック氏と研究チームは、海洋哺乳類センターで獣医師による治療とリハビリを受けているカリフォルニアアシカ30頭を対象に調査を行った。

 アシカには、脳の病変を測定するためのMRI(磁気共鳴画像)スキャンと、記憶を調べる行動試験を実施した。行動試験は、迷路の中のネズミに対して行われるのとよく似た種類のもので、ご褒美の餌を得るためにはどちらの方向に進むべきかを記憶しておかなければならない。

 ドーモイ酸中毒を起こしているアシカは、記憶の処理をつかさどる海馬に損傷を受けているケースが多かった。この損傷が重度になるほど、アシカの生存確率は低下した。

 論文の共同執筆者、カリフォルニア大デービス校のチャラン・ランガナート(Charan Ranganath)氏は、「活動的にえさ探しをするアシカのような動物にとっては、自らの位置が分からなくなることは大問題だ」と説明した。

 研究チームによると、長期にわたる脳の損傷を引き起こす有毒物質の量を把握するには、さらに研究を重ねる必要があるという。(c)AFP