【12月2日 AFP】仏パリ(Paris)で11月13日に発生した同時テロ事件は、ソーシャルメディア上に前例のないほど多くのうわさと臆測の嵐を巻き起こした。その量は、今年1月の風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)本社とパリ近郊の襲撃事件の際に押し寄せた情報を上回っていた。今回の事件は夜遅い時間帯に発生したことに加え、複数の場所が同時多発的に襲撃されたことも、うわさの大量生産に拍車を掛けた。一方で10か月前の事件に比べ、無責任な内容や陰謀論は少なく、前回の教訓がしっかり生かされた感もあった。

 13日の金曜日の夜、私は自宅にいた。するとツイッター(Twitter)のタイムラインに襲撃の第一報となるツイートが入り始め、たちまち大氾濫となった。その日宿直だった同僚のアマンディーヌ・アンブレーニ(Amandine Ambregni)が、彼女の判断で最重要と思われるツイートをAFPの編集者たちにすでに転送していた。劇場「バタクラン(Bataclan)」での発砲を含め、早い段階で出回った情報の一部は後に真実だったことが判明した。しかし全部がそうとは限らなかった。レアール(Les Halles)地区で銃撃と爆発があったとツイートした人々もいたが、そのような事実はなかった。しかし事件発生直後は、完全な真実と部分的に正しい情報、そして全くのデマを区別することは不可能だった。

 自宅を飛び出して本社に向かった際、路上にいた人のあまりの多さにぎょっとした。誰もが夢中で見ていたのは携帯電話だ。すれ違う人全員がソーシャルメディアを使って、何が起きているのか把握しようとしているようだった。そうした状況では、ごく小さなうわさまでもが一人歩きすることもある。

 ただ誤解されたくないが、このような大事件が起きた時には情報や目撃者の証言、連絡先、画像などを見つけるために、ソーシャルメディアは強力なツールの一つだ。ソーシャルメディアは今日、ジャーナリスト、特にAFP記者の仕事の中で不可欠な役割を果たしている。もちろん自分の足で情報源を探すことが、我々の仕事に欠かせない基本であることに変わりはない。だが、今回のような一大ニュースの場合、ソーシャルネットワーク上に拡散する膨大な情報の中から真実を見つけ出すことの難しさについても認識しておく必要がある。

仏パリ同時テロ発生直後、パリ10区で人々を避難させる救助隊(2015年11月13日撮影)。(c)AFP/KENZO TRIBOUILLARD

■緊急態勢のプレッシャーと情報の見極め

 このような事件に直面している間は、AFPのソーシャルメディア・チームにとっても、状況をしっかり把握するために冷静さを保つことが肝要だ。ツイッターやインスタグラム(Instagram)、その他のプラットホーム上に流れている信頼できそうな情報を編集部や記者たちに知らせることも仕事の一部だ。そこからさらに確認作業を進めてもらうためだ。しかし同時に、手掛かり的な情報やうわさにすでに埋もれかけている記者たちの下に、さらに多くの情報を氾濫させるわけにもいかない。電光石火の速さで急展開していく状況の中、そのバランスを見極めることは容易ではない。特に公式情報が入手しにくく、皆が神経をとがらせているような時にはなおさらだ。

 愚にも付かない話と真剣な情報を選別する際に、我々が必ず気にする重要な基準の一つは発信源、つまり誰がそれをツイートしたかということだ。例えばジャーナリストによるツイートなら、真実である可能性はより高い。ジャーナリストは少なくとも情報を表に出す前に、事実関係の裏を取るようたたき込まれているからだ。

 しかし今日のような時代、誰も情報を占有する者などいない。私が認識している限り、バタクラン襲撃を最初にツイートしたのは事件前から私がフォローしていた、デジタル問題に強い弁護士のブノワ・タバカ(Benoit Tabaka)氏だ。タバカ氏はジャーナリストではないが、これまでの経験から彼が信頼に値すること、適当な情報をツイートするような人物ではないことを分かっていた。バタクランが襲撃されたとタバカ氏が言うのなら、それは真実である可能性が極めて高く、事実そうだった。対照的にレアールで襲撃があったらしいという誤報は、気の動転した大勢の人たちが、ふと立ち止まって疑問を投げ掛けることもなくツイートし、機械的にリツイートされた。

 襲撃当夜のタバカ氏のツイートは「バタクランで多くの発砲。しかも続いている」というものだった。

 一方、レアール襲撃の誤報は、その夜最も多く拡散したデマとなった。翌日、パリ東郊のバニョレ(Bagnolet)で「発砲」があったという情報も出回ったが、これは後に爆竹だったことが判明した。さらに、エッフェル塔(Eiffel Tower)に近接するプルマンホテル(Pullman Hotel)に重武装した警察官が多数配置されたという情報は、ツイッター上ではその後、銃撃戦になったという尾びれがついて広まった。

 こうしたうわさの大半は、悪意を持って流されたものではない。しかし話はあっという間に雪だるま式に大きくなり始める。警官の配備や爆竹の音、車の排気管からの発火といった些細な出来事が瞬く間にうわさに変わり、ツイートやリツイートが何千回と繰り返され、狂騒を生み出していく。そうしたうわさに捕われるのも無理はない。首都でこれだけ多くの死傷者を出す襲撃事件が発生した以上、別の事件が発生する可能性は十分あり得るからだ。

仏パリのノートルダム大聖堂で行われた同時テロ犠牲者の追悼ミサの最中に、携帯電話を側近に見せるイルドフランス地域圏のジャンフランソワ・カレンコ知事(右、2015年11月13日撮影)。(c)AFP/LIONEL BONAVENTURE

■デマ、「自称メディア」、未確認情報…

 またうわさの中には、事実が一部含まれているものもある。例えば、仏北部の街カレー(Calais)で、移民らがパリの襲撃を「祝う」かがり火をたいているとされる写真がツイートされた。一方で、報復的な反移民デモが起きたというツイートもあった。私は予防線を張って記者たちにこれらのツイートの存在を警告し、情報が全く信用できないものである可能性があることを強調した。これらのツイートに添付されていた写真が全て同じだったからだ(我々は後に、その写真が数週間前に撮影されたものであることを突き止めた)。調べてみると確かにその夜、カレー付近で火災があったことは事実だった。しかしそれは喜びのたき火などではなく、電気系統の異常による出火が強風にあおられて炎が上がったのだった。

 こういった状況下で私を最もいらつかせたのは、「自称メディア」によって未確認情報が右から左へとツイートされ、しかも多くのユーザーがそれを「メディア」として認め、彼らが言うことをうのみにしていることだった。レピュビュリック広場(Place de la Republique)やレアール、トロカデロ(Trocadero)でも「襲撃が確認された」というツイートは、実はそんな襲撃は一切なかったにもかかわらず、7000回もリツイートされた。また、発信源の全く分からないアカウントから投稿されたそっくりのツイートは、1万回以上もリツイートされた。この手の連鎖反応が、あの夜、世間をますますパニックに陥れた。

 このように緊迫状態が極限に達し、現場に30~40人の取材班を派遣しているメディアでさえもが事実とうそを見分けるのに苦闘しているときに、現場に記者もいない有志運営のいわゆる「情報サイト」が信用されてしまうというのは、どういうことなのだろうか。何万人というフォロワーを抱えるそうしたアカウントの中には、偽情報があっても責任を負わず、謝罪も説明もなく平然と削除してしまうところもある。その点AFPは、誤報があった場合は必ず訂正する。

 事件当夜に広まったデマの一部を挙げると、バタクランでのコンサートの最中とされた写真は、実際はアイルランドでのコンサートの模様だった。事件翌日の人けのないパリ市街だという写真は、8月に撮影されたものだった。米ニューヨーク(New York)のエンパイアステートビル(Empire State Building)がフランス国旗の3色にライトアップされたというデマもあった。

■SNSユーザーの成長

 テレビ局フランス24(France 24)の「オブセルバトゥール(Les Observateurs)」や全国紙ルモンド(Le Monde)の「デコドゥール(Les Decodeurs)」といった一般の人々の情報発信を選定・検証した上で配信するサイト、またリベラシオン(Liberation)紙やフィガロ(Le Figaro)紙の記者仲間たちは今回、偽情報を見抜く素晴らしい仕事をしてくれた。

 しかし全体的には、1月に発生したシャルリー・エブド紙やユダヤ系食料品店への襲撃事件後に比べ、陰謀論や悪質なうわさ、暴力の呼び掛けなどは比較的少なかった。

 今回ソーシャルメディアは、憎悪をあおる行為よりも、行方不明者の捜索により活用された。最も多くリツイートされたのは、安否不明の愛する人たちを探すメッセージで、中にはそれで実際に行方不明者が見つかったケースもあった。また根拠のない臆測や犯罪現場の写真、警察の動向といった情報を拡散させないようにという当局からの要請を多くの人が転送した。一方明らかに「空想まがい」のツイートを投稿しているユーザーに対しては、誤報はあり得るにせよ可能な限り最も信ぴょう性の高い情報発信をしている、定評のあるメディアを信じるようさとす声もあった。

 まるで1月からの10か月ほどの間にソーシャルメディアのユーザーたちが少し成熟し、責任感を増したかのようだった。来るべき世界の予兆といえるだろうか?ただそれを願うしかない。(c)AFP/Gregoire Lemarchand

この記事は、AFP本社ソーシャルメディア部のグレゴワール・ルマルシャン(Gregoire Lemarchand)部長がロラン・ドクルソン(Roland de Courson)記者と共同執筆、ヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者が英訳し、11月19日に配信されたコラムを日本語に翻訳したものです。

仏パリ同時テロ事件の犠牲者を悼み、仏国旗の色にライトアップされたエッフェル塔(2015年11月16日撮影)。(c)AFP/ERIC FEFERBERG