声帯組織の培養に成功、移植も視野に 米研究
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【11月19日 AFP】声帯組織を実験室で培養することに成功したとの研究成果を米国の研究チームが18日、発表した。この成果は、がんや他の病気で声を失った数百万人の声を取り戻す日が来る可能性を示すものだ。
米医学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Science Translational Medicine)」に掲載された研究論文によると、研究はまだ、初期の段階にあるというが、培養された声帯組織は、遺伝子操作によりヒトに似た免疫系を持たせたマウスの体内で、約3か月間にわたりその形態を維持することができた。また、死んだ犬の体から摘出した無傷の喉頭に移植すると、音声振動を生成した。
研究を主導した米ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin at Madison)の音声言語病理学者、ネイサン・ウェルハム(Nathan Welham)氏によると、声帯は「非常に精巧なシステムで、再現が困難」であるため、今回の成果は大きな意味を持つという。
論文によると、声帯組織は、線維芽細胞と上皮細胞として知られる正常な声帯細胞用いて生物工学的につくられた。培養には2週間を要したとされる。声帯細胞は、研究と関係の無い理由で外科患者から除去したものだった。
声帯細胞は、分離・精製された後、実験室で人工皮膚が培養される時に用いられるような三次元構造のコラーゲンの足場材料に播種された。培養すると、声帯細胞は「一般的な声帯粘膜の構造とタンパク質構成に酷似した層に集積した」という。
研究では、培養組織が正常に機能するかどうかを確認するため、イヌの死骸から摘出した喉頭に同組織を移植した。ここに湿り気のある空気を吹き込んだところ、声帯組織は研究チームが期待した通りに振動し、音を発生させた。
また、ウェルハム氏によると、培養組織の感触や湿り気、弾力も一般的な声帯によく似ているという。
このような培養組織が、それを必要としている人々に広く提供されるのは、まだ先の話だが、今回の研究は、声帯の機能不全がある人々にとっては明るいニュースとなりうると研究チームは述べている。声帯機能不全の患者数は米国だけでも2000万人に上り、現時点では有効な治療法も存在していない。
「声は驚愕に値するものだが、何か問題が起きるまでは、あまり関心が持たれないのも事実だ」とウェルハム氏はコメントした。(c)AFP