【11月14日 AFP】家では息子に「お父さん」と呼ばれ、出勤時には男性の格好をして出掛けるこの中国人「女性」は、小さな秘密を胸に抱え続けている。確かに生まれた時は男だった、でも今はそうではない、という事実だ。

 男性の体を持つこの女性はずっと前から、自分は女性だと意識してきた。それでも、男性として別の女性と結婚せざるを得なくなり、家庭を持ってからはうつを患うようになった。そして、とうとう意を決し、性別適合手術に踏み切った。「自殺したいと思っていた。でもある時思い立った、行動を起こすべきだって。どうせ死ぬなら、手術台の上で死のうと」

 中国社会は依然、多くの面で極めて保守的だ。この女性は今でも新しく得た性別を公表していない。今回の取材でも、本名や職業は明かさないでほしいという要望があった。「あっさり見つかってしまうでしょう。職も失いかねません」

 米国に拠点を置く非政府組織(NGO)「アジア・カタリスト(Asia Catalyst)」によれば、中国には推計400万人のトランスジェンダー(性別越境者)がおり、根強い差別に直面しているとみられる。

 中国の芸術や文学では昔から、性別の不明瞭な人物が描かれてきた。性別適合手術も合法化されているが、性別越境はいまだに精神疾患の一つに分類されている。ちなみに同性愛は2001年にこの疾病分類から除外された。

 トランスジェンダーだと家族に告白すれば、勘当されたり、結婚して子どもを持つよう強要されたりするケースも少なくない。前述の女性はAFPにこう語った。「体がまだ男だった時に、妻と結婚した。体を変えなくても、妻と暮らしていくことはできるのではないかと思った。私が自分は女だと認識していることについて、妻はそれでも構わないと言ってくれた。彼女は小さな町の出身で、性格はさほど合わないけれど、二人とも結婚したいという願望はあった」

 この女性は、父親にはなりたくなかったという。しかし家族から子どもを持つよう説得され、やむなく受け入れた。手術後も息子のためを思い、妻と別れることなく一緒に暮らしている。「9歳の息子には『お父さんにはちょっとだけ秘密があるんだ。お父さんは男じゃないんだよ』と言っている。まだ幼すぎて、そう言っても混乱しないのです」