【9月28日 AFP】ノルウェーとスウェーデンの国境を毎日行き来する何十台ものトラックをめぐり、両国が「綱引き」を演じている。それらのトラックが積んでいる貴重な貨物とは、ごみの山だ。

 スウェーデンはごみの分別と再生に熱心だ。ごみ焼却場では、25万世帯分の電気と、95万世帯分の熱を生成しており「ごみが足りない」という珍しい立場にある。そのため、他国から年間約200万トンのごみを輸入。輸入元は主に隣国ノルウェーで、英国やオランダなど周辺国からも運ばれてくる。

「市場と同様だ。廃棄物を国から国へ輸出入するのは、需要と供給に基づくビジネスだ」と業界を代表するスウェーデン廃棄物管理・リサイクル協会(Swedish Waste Management and Recycling Association)のバイネ・ビックビスト(Weine Wiqvist)会長はいう。

 とはいえ、それは自治体や産業界といった「輸出側」が料金を払って、自分たちの「製品」を「輸入側」の焼却場に燃やしてもらうという一風変わった市場だ。

 スウェーデンでは近年、ごみ焼却事業者の数が急増して焼却費が下落した。これは財政の苦しいノルウェーの自治体が、国境を越えたごみ処理に目を向ける誘因となっている。だが、ごみの輸出入のせいで、滑稽な状況も生まれている。

 ノルウェー西岸の街ボス(Voss)は、100キロほどしか離れていないベルゲン(Bergen)に焼却場があるにもかかわらず、約800キロも離れたスウェーデン中部のヨンショーピング(Jonkoping)にごみを送っている。

 ノルウェーの業界関係者は、スウェーデンの焼却業者がダンピングを行っていると非難する。そのせいでノルウェーでは、焼却業が伸び悩むだけでなく、環境に優しい熱エネルギー供給網を築く妨げにもなっていると主張する。

「スウェーデンの方が安いのは、たばことビールだけじゃない。廃棄物処理もあっちのほうが安い」と、ノルウェー南部の街クリスチャンサン(Kristiansand)にあるレトゥールクラフト(Returkraft)焼却場のテリエ・ドビック(Terje Dovik)所長はいう。「ノルウェーの焼却場で処分できるはずのごみがスウェーデンに送られてしまうため、今度は私たちが英国から(ごみを)輸入しないとならない」

 ごみを輸送するには環境保全のための負担コストがかかるが、スウェーデン側は弁明する。ビックビスト氏は「輸送そのもの(による環境コスト)はほとんど無視できるという結論が出ている。国内で埋め立てずに国外へ輸送することで節減できるコストと比べたら、微々たるものだ。その上、そのごみを燃料として使うのだから、石炭や天然ガスといった燃料の代わりになっている」。

 スウェーデンの廃棄物管理協会によれば、3トンのごみから生まれるエネルギーは、石油1トンまたは石炭2トンから生まれるエネルギーに匹敵する。しかし「スウェーデンで燃やす方がメリットが大きくなり過ぎ、ノルウェーで分別・リサイクルする誘因がなくなってきている」とドビック氏は嘆く。公式統計によれば、ノルウェーの一般家庭のごみリサイクル率は6年前には44%だったが、昨年には37%まで下がった。「環境保護の観点からいえば、スウェーデンの焼却業者はノルウェーよりも、ごみ処理の選択肢が埋め立てしかない東欧へ行った方が効果が大きい」とドビック氏はいう。

 EUでは2025年までに埋め立て場に送られるごみの量を制限する方針だが、今も毎年1億トン以上のごみが埋め立て処理にまわされている。(c)AFP/Pierre-Henry DESHAYES