【9月28日 AFP】トルコ南西部ボドルム(Bodrum)は、いつもの夏ならばトルコのセレブたちやイスタンブール(Istanbul)の富裕層が集まることで有名なリゾートだ。高級クラブや金色に輝く砂浜があり「トルコのサントロペ(Saint-Tropez)」とも呼ばれる。

 しかし今年の夏のホリデーシーズン、ボドルム半島は欧州連合(EU)やギリシャのコス(Kos)島をボートで目指す難民たちの出発点となった。ギリシャまで到達し、EUで新しい人生を築くチャンスをつかむことができる人もいる。だがそうでない人たちにとっては、このきらびやかなリゾートが逃れられないわなとなってしまう。

 さらに、ここを生きて離れることがかなわない人さえいる。ボドルムの海岸に打ち上げられた3歳のシリア人男児。彼の遺体の写真が拡散したとき、世界はこの危険な旅について、かつてないほどに思い知った。この男児と5歳の兄もまたエーゲ海に沈んだ犠牲者だ。そのゴムボートに乗っていたのは、シリア北部の町アインアルアラブ(Ain al-Arab、クルド名:コバニ、Kobane)から逃げてきた人々だった。

 空気は緊迫している。取材は困難だ。言葉の壁以前に、難民たちは怖がって話したがらない。彼らは自分たちでボートを調達しているわけではない。密航業者の下で1人当たり1000ドル(約12万円)以上を支払っている。出航の時間と場所を知らせる密航業者からの電話を待っており、メディアに話せば、その夢が危険にさらされるのではないかと恐れている。

 ボドルムの公園、市場、ビーチにはシリア人があふれている。中心部の宿泊所エリア、屋外駐車場、バスターミナルに近い市庁舎の庭も、シリア人でいっぱいだ。子どもの遊び場にマットレスや段ボールを敷き、その上に寝泊まりしているシリア人も100人ほど見た。シリア北部ラッカ(Raqa)から逃げてきたハティムさん(30)もその一人だ。「これは私たちの家だ。私たちはここで寝泊まりしている。シリアのような爆弾はない」と彼は言った。「仕事を見つけに欧州へ行くんだ」

 彼らは新しい人生への望み以外、ほとんど何も持っていない。着ている救命胴衣は安物で、時に指輪をはめた人や、パンの入ったナイロンバッグを持った人がいるくらいだ。それでも密航業者は、一人でも多くボートに詰め込むために、荷物は最小限にしろと命じる。最も大事な所持品は、防水バッグに入れて首からぶら下げた携帯電話と、下着の中に隠している現金だ。

 救命胴衣を売っている店はたくさんあり、価格は40~100リラ(約1600~4000円)。安全性が認証されている救命胴衣の数分の1の値段だ。多くの場合、中に新聞紙を詰めてあるだけだという。移民たちは恐怖におののき、話したがらない。彼らの大半は泳ぎ方を知らず、死を恐れているのではないだろうか。