【9月14日 AFP】殺人を犯したパキスタン人の告白、過剰に仕事熱心な宗教警察、イスラム教徒にとって最も神聖とされる場所で妊娠中の妻が痴漢に遭ったと激怒するアラブ人──イスラム教徒で同性愛者のパルベス・シャルマ(Parvez Sharma)氏が製作した新作ドキュメンタリー映画「A Sinner in Mecca」(メッカの罪人)は、ありのままに記録したメッカへの大巡礼(ハッジ)の様子を英語圏向けに紹介している。この映画が理由でシャルマ氏は、殺害の脅しやインターネット上で憎悪・差別的な攻撃を受けているという。

 映画はサウジアラビアと、同国の多数派を占めるイスラム教スンニ派(Sunni)の一派で厳格なワッハーブ派(Wahhabi)を非難するものだが、同時にシャルマ氏にとって自分の信仰と性的指向の調和を試みる非常に私的な作品でもある。米ニューヨーク(New York)で同氏が米国人男性と挙げた結婚式の映像も盛り込まれており、多くのイスラム教徒はこの映画を攻撃的とはいかないまでも、挑発的だととらえるだろう。

 インドで生まれ、現在はニューヨークに住む監督のシャルマ氏は、映画の中で巡礼者でもある。シャルマ氏はイスラム教が暴力的な少数派に乗っ取られていると考えており、この映画は全人類の4分の1近くがよりどころとしている信仰への警鐘だという。

 シャルマ氏は祖国インドでは、スーフィー(Sufi、イスラム神秘主義)の集団と交流している。彼らはワッハーブ派とは異なり、信仰のうえで音楽と結びつき、いっそう神秘的で独善的な要素はより少ない。

 シャルマ氏は2011年にメッカへの大巡礼を行ったが、それは国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の指導者、ウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者が殺害されてから4か月後、「アラブの春(Arab Spring)」が始まってから7か月後だった。「イスラム世界が激しく揺れ動いている時に(大巡礼を)行うのが一番面白いと思って」意識的にこの時期にしたという。

 ドキュメンタリーの大部分はシャルマ氏自身に焦点を当てているが、自ら行った50件以上のインタビューの中の二つも含まれている。あるアラブ系の男性は、妻が他の男たちに触られたと怒っている。またパキスタン北部ラホール(Lahore)から来た別の男性は、いわゆる「名誉」殺人に加わったので償いをしたいと告白した。

 ドキュメンタリーはこれまでに英国と北米の映画祭で上映され、米ニューヨークでは先ごろ映画館で公開された。今後も欧州のテレビやインターネットの動画配信サービスで放送される予定だ。

 米映画批評サイト「カット・プリント・フィルム(Cut Print Film)」で評論家のデービッド・サビジ(David Savage)氏は「シャルマ氏自身の顔や、彼が見たものに対する自分の反応を常に写し続ける手法は、時にしつこい『自撮り』のような印象を与える」と批評しつつ、イスラム教徒の同性愛者たちを抑圧し、隠れさせている暴力や死の脅威を踏まえれば「重要かつ貴重な映画」だと評価した。

 シャルマ氏によると、映画への反応はおおむね肯定的だが、憎悪や差別に満ちた嫌がらせの手紙や、パキスタンやサウジアラビアといった国のサーバーを通じた殺害の脅迫も殺到しており、イラン政府からも非難を浴びたという。シャルマ氏はAFPの取材に「いずれ、イスラム教徒が好意的な反応をしてくれると期待している」と語った。(c)AFP/Jennie MATTHEW