【8月10日 AFP】5年前、スペインが住宅ブームに沸いていた頃、エクアドル人のフェリックス・ジュンボ(51)さんは建設業者として働いていた。だが現在は、かつてクレーンが動いていた場所で、カボチャやキャベツを収穫している。

 スペインの何百万という人々と同様、ジュンボさんは経済危機で職を失った。それでも彼は経済危機の間に生まれた何千もの「社会菜園」の一つで、忙しく働いている。「私や多くの人々にとって、これはある種のセラピーだ。失業状態にあることを忘れさせてくれる」

 この菜園は、スペインの首都マドリード(Madrid)の労働者階級が暮らす地区アデルファス(Adelfas)にある。ジュンボさんは建設業者として「月に最大3000ユーロ(約41万円)も稼いでいた」という。だが2010年以来、仕事が見つかっていない。

 そこで彼や近所の住民数十人は、線路のそばの小さな土地を利用するようになった。2008年にはじけた建設バブルの時代に建てられた住宅に囲まれた一画だ。通りの反対側から長いホースで水を引いてスプリンクラーを設置し、豆やレタス、キャベツ、トマトなどを植え始めた。干からびていた土地から芽が出始めた。「私たちは少しずつ、一画ずつ菜園を増やしていき、今では16面ある」と、ジュンボさんはいう。

■有機農業時代の産業革命

 建設バブルの崩壊で、何百万人もが失業して貧困に陥った。一方で、建設計画があったが放置された空き地もたくさん残った。「こうした土地で、彼らは都市菜園を作っている」と、スペイン有機農業協会(Spanish Society of Organic Agriculture)の専門家、グレゴリオ・バジェステロス(Gregorio Ballesteros)氏はいう。

 経済危機以前の2006年にあった都市菜園は、スペイン全土で約2500か所だった。それが今では200都市で1万5000か所以上に上っている。「多くは鉄道の近くで、所有権が不明確な土地だ」と同氏はいう。

 このような都市菜園は米国や北欧では19世紀末の産業革命期に広まった。経済危機や社会危機の時期と「歴史的に関連」しているが、現代では、持続可能な有機食品の生産手段でもあるとバジェステロス氏は述べる。アンダルシア(Andalusia)州のように、貧困家庭の菜園作りを自治体政府が補助し、公的資金で賄われているところもある。カタルーニャ(Catalonia)州の州都バルセロナ(Barcelona)は今、不法占拠で利用されてきた土地を正式に認めようとしている。

 その他の地域では、市民の取り組みによって菜園は運営されている。マドリードのサンフアン・デ・ディオス(San Juan de Dios)地区で、ホームレスの人々のための「社会菜園」を運営している「フアン・トマテ(Juan Tomate)」のようなグループだ。同地区のカトリック教会が運営する一時宿泊施設で、ビクトリアーノ・カステジャーノスさん(59)は麦わら帽子をかぶり、トマトやキュウリを育てている。「これは私たちが生まれ変わる道だ。死人から生き返ることができる」と声を震わせながら語った。1年前に作られたこの菜園でとれる野菜は、調理されて施設のホームレスの人々に提供されている。

 マドリードの中心街ラバピエス(Lavapies)地区では、地元住民らが「ここは広場」と銘打った菜園を始めた。「私たちの近所の住民が利用するまで、ここはがれきの山だった」と、カンデラ・マルチネス(34)さんはいう。今では緑のまわりを子どもが走り回っている。彼女にとって、この場所は社交の場でもある。「私たちはここで、人間関係や共感も育んでいる」(c)AFP/Anna CUENCA