ミトコンドリア病の幹細胞治療に前進、研究
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【7月16日 AFP】ミトコンドリア異常によるまれな疾患である「ミトコンドリア病」への幹細胞治療に向けた重要な一歩を踏み出したとする研究報告が15日、発表された。この病気は、母系遺伝として子に受け継がれるとされている。
米オレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University)などの研究チームの報告によると、同チームは、正常な多能性幹細胞を作製するために、患者から採取した皮膚細胞内の有害なミトコンドリアの「修正」に成功したという。多能性幹細胞は、体内のあらゆる組織細胞に分化できる万能細胞だ。
同大は声明で「今回の飛躍的な進歩は、患者の病変組織を取り替えるための踏み台となる。根治不能なヒト疾患が治療可能となる再生医療の世界に扉を開くものだ」と述べている。
体内の大半の細胞に存在するミトコンドリアは、糖と酸素をエネルギーに変える微小な発電装置だ。だが、母系遺伝性のDNA変異によってミトコンドリアが機能不全を起こすことで、視神経や聴神経、筋肉、心臓、脳に至るまでのさまざまな機能に影響が生じる恐れがある。
先天性のミトコンドリア疾患のある新生児は、米国だけで毎年約1000~4000人に上る。現在のところ、有効な治療法は存在しない。
英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文の共同執筆者、シュークラト・ミタリポフ(Shoukhrat Mitalipov)氏は、ミトコンドリア疾患の子どもを持つ家族に対して、治療法が登場間近だと今は伝えることができるとコメントしている。
研究チームは、ミトコンドリアDNA変異を持つ人々から皮膚細胞を採取し、ここから細胞核を除去。その後、正常なドナー卵子から取り出した細胞質を皮膚細胞に組み込んだ。細胞質は、ミトコンドリアを含むジェル状物質で、細胞膜内部で核の周囲を満たしている。
オレゴン健康科学大は、「この技法により、研究チームは正常なミトコンドリアを持つ胚性幹細胞(ES細胞)を作製した」と声明で述べている。また「研究チームは将来、病変組織を取り替えるためにこの技術を利用したいと望んでいる。病変組織の取り替えは、細胞を1個取り出して問題の変異を修正、細胞を増殖させた後、遺伝子的に修正されたこれらの細胞を患者に再注入することによって行われる」と説明した。