■セックス経験のない人のための「学校」

 直接比較できるような国際統計を見つけるのは難しいが、日本人は他の先進諸国と比べて全体的にセックスをしていないとされる。前述の2010年の調査では、日本の18~19歳の68%が童貞だと回答。同年にコンドームメーカーのデュレックス(Durex)が欧州で行った調査で、15~20歳の童貞率はもっと低かった。例えば、20歳になるまでにセックスをしたことがない男性は、ドイツで20%未満、保守的なトルコでも37%だった。

 一方、障害者の性に関する支援などを行っている非営利団体「ホワイトハンズ(White Hands)」の坂爪真吾(Shingo Sakatsume)代表理事は、現代日本の男性が直面している難しい問題は、この国ではテレビや漫画や街中に性的なイメージが氾濫している一方で、セックスに関して真剣に話し合われることがほとんどないことだという。

「現代社会の特徴として、性というものを学ぶ場がないと思う。恋愛にしてもセックスにしても結婚にしても」と、坂爪氏は話す。「性的な自立が社会的な自立につながる。障害のある人でも自分の性を認識して、自分の性があるということを認識した上で他人との関係を作っていくということ、これができる人は社会参加もしやすい。自分の性を認識できなかったり、どう性と向き合っていけばいいか分からないと、なかなか社会参加ができない」

 坂爪氏は現在、セックスをすることにバリアを感じている健常者の支援も行っている。具体的には、セックス経験のない人のための学校「ヴァージン・アカデミア」を開き、パートナーの見つけ方や、建設的な関係の築き方などに関する講義をしている。昔は厳格な社会的道徳観が人生の節目を乗り越える助けになったと、同氏はいう。だが今では「個人が自己責任で相手を探して交渉して付き合ってセックスまでいってと、全部自分だけの力で頑張るということになってしまった」

 サカイさんはホワイトハンズの「ヴァージン・アカデミア」に参加し、そこで女性の体を理解するための一環として裸婦を描くヌードデッサン会に通っている。「初めて見たのは去年の秋だった。モデルさんが、まあ、とにかくきれいでびっくりした」とサカイさんはいう。「胸とか性器とかも色んな形があるんだと」

 サカイさんはこうした勉強が有益だと感じている。これで誰かとセックスできるかどうかは分からないが、経験がないことで卑屈になることはないと思えるようになった。サカイさんはいう。「そういうことで悲観することはない」「そんな大したことじゃないんだ、死なないんだという話」 (c)AFP/Harumi OZAWA