【6月3日 AFP】ある女性は妊娠を理由に殴り殺され、別の女性は嫉妬で激怒した男に刺し殺された。離婚を迫ったために夫に喉を切り裂かれた女性もいる。

 こうした残虐な殺人行為は、中南米の女性が直面している憂慮すべき暴力の一例だ。中南米では毎年、数千人の女性たちが、配偶者やパートナーによって殺害されており、問題解決のため、各国で新たな法律を採択する動きがみえ始めている。

 中南米の統計は全体的に不完全で一貫性を欠いたものが多いが、それでも統計があるところを見ると、パートナーによる暴力（ドメスティック・バイオレンス、DV）で死亡する女性の数は1日当たりアルゼンチンで約1人、メキシコで5人超、ブラジルでは15人に上るなど衝撃的な数字だ。

 アルゼンチンでは最近、そうした事件が連続し、新たな危機感が生じている。コルドバ（Cordoba）州で幼稚園の教諭をしていたマリア・エウヘニア・ランセッティ（Maria Eugenia Lanzetti）さん（44）も被害者の一人だ。脅迫的な行動を繰り返す夫には接近禁止命令が下され、ランセッティさんの携帯電話には非常ボタンも備わっていた。だがこうした措置もむなしく、ランセッティさんは4月15日、教室に押し入ってきた夫によって、園児たちの前で喉を切り裂かれた。

 また14歳の少女が、妊娠を知ったボーイフレンドに殴り殺され、遺体を埋められる事件も起きた。激怒したアルゼンチンの国民は5月27日、女性に対する暴力を非難するデモ行進を呼び掛けた。女性の人権擁護団体ラ・カサ・デル・エンクエントロ（La Casa del Encuentro）によれば、過去7年間で1800人超の女性が殺害されたという。このデモ行進は隣国のチリやウルグアイにも広がっている。

■「法だけでは不十分」

 アルゼンチンでは2012年にフェミサイド（男性による女性殺害のうち、性別的要因が大きく関与するもの）に対する刑罰の厳格化を図った。中南米ではその他15か国がフェミサイドを刑罰の対象としている。しかし、人権活動家たちからは法律による効果は限定的だとの声が上がっている。

 メキシコの団体「全国市民フェミサイド監視所（National Citizens' Femicide Observatory）のマリア・デ・ラ・ルス・エストラーダ（Maria de la Luz Estrada）さんは「2012～13年にかけて我々はメキシコ全土で殺害された女性3892人の事件を記録した。このうちフェミサイドとして捜査が行われたのは、わずか613件だった」と話す。

 アルゼンチンのガブリエラ・アレグレ（Gabriela Alegre）国会議員は「現在の状況は法制度や刑罰が十分でないことを示している。文化を変え、教育を行うことで問題に立ち向かわなければならない」と語った。（c)AFP/Paula Bustamante