カンヌ映画祭、「女性の年」アピールに女性映画人がブーイング
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【5月21日 AFP】南仏カンヌ(Cannes)で開催中の第68回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)は、女性をめぐる諸問題や女性監督に光が当てられ「今年は女性の年」との評価を受けている一方、女性映画人の多くからは「女性」という枠組みでくくられることへの反発も出ている。
カンヌ映画祭については、映画業界一般と同様に、これまで男性中心のイメージが強かった。そのため今年の公式セレクションには「風穴を開けた」と安堵する向きもあった。
オープニング作品はエマニュエル・ベルコ(Emmanuelle Bercot)監督の『スタンディング・トール(英題、Standing Tall)』だったが、女性監督作品がカンヌ開幕を飾ったのは史上2回目。また、女性初の名誉パルムドールがアニエス・ヴァルダ(Agnes Varda)監督に授与される予定だ。
女性監督ゼロという状況も珍しくないコンペティション部門には、今年は2人の女性監督作品がノミネートされた。今のところ最も話題を集めている出品作は、ハリウッド女優ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)主演でレズビアン(女性同性愛者)の抑圧された愛を描いた『キャロル(原題、Carol)』だ。
さらに、アクション映画でも『マッドマックス 怒りのデス・ロード(Mad Max: Fury Road)』でシャーリーズ・セロン(Charlize Theron)が、そして麻薬組織との戦いを描くスリラー映画『シカリオ(原題、Sicario)』ではエミリー・ブラント(Emily Blunt)が、それぞれ大活躍する。
ただ、当の女性たちは、恩着せがましいと抵抗感をあらわにしている。
「今年は『女性の年』だそうだけれど、1年限りの瞬間的ブームで終わらないことを願う」と、ブランシェットは記者会見でコメントした。
ベルコは、自身の作品がオープニングを飾ったことを女性の権利が認められた勝利とみなす発想をきっぱり拒否した。「光栄なのは作品が選ばれたこと。このような名誉ある立場が女性に与えられたからといって、自分が恵まれているとは思わない」
オスカー女優のナタリー・ポートマン(Natalie Portman)は、監督デビュー作『ア・テイル・オブ・ラブ・アンド・ダークネス(原題、A Tale of Love and Darkness)』の宣伝に駆け回りつつ、女性が中心となって制作した作品は今なお「自己満足」として片付けられてしまうと話した。
ポートマンは米歌手・女優・映画監督のバーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)に言及。「子どもの頃、ストライサンドが自ら出演する作品を制作すると、虚栄心を満たしたいだけだと世間で評価されていたのを思い出す」と語り、女性監督作品がわずかしかない米ハリウッド(Hollywood)の映画業界は「極めてアンバランス」だと批判した。
今年のカンヌ映画祭のトークイベントでは、昨年アメリカの大手映画会社が制作した映画のうち女性監督作品はわずか4.6%で、今年のアカデミー賞(Academy Awards)で最優秀作品賞にノミネートされた映画に女性主人公の作品は1本もなかったというデータも明らかにされた。
女優サルマ・ハエック(Salma Hayek)は、真の変化をもたらすのは映画祭における形ばかりのアピールではなく、経済効果だけだと指摘する。
ブランシェットは、 2015年にもなっていまだにこうした問題が議論されるのは頭に来ると述べつつ、米芸能誌バラエティー(Variety)に「議論はもう終わりにしてほしい。でも、まだまだ議論されるべき問題だ」と語っている。(c)AFP/Eric Randolph