【5月21日 AFP】かつて独裁者アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の官邸前に設置され、ベルリンの壁(Berlin Wall)が崩壊した1989年を最後に行方が分からなくなっていた等身大の馬のブロンズ像2体が20日、ドイツ警察当局によって密売組織の倉庫から発見された。数億円相当の価値があるという。

 警察によると、2体の馬の像はナチス(Nazi)の第三帝国(Third Reich)の依頼で制作されたもの。ドイツ5州10か所で警察が美術品密売組織の構成員とされる64~79歳の容疑者8人を対象に行った強制捜査の際、西部ラインラント・プファルツ(Rhineland-Palatinate)州バート・デュルクハイム(Bad Duerkheim)にある倉庫の中で見つかった。

 発見された美術品の中には、彫刻家のヨーゼフ・トラク(Josef Thorak、1889-1952)やアルノ・ブレーカー(Arno Breker)らによる馬の彫刻や花こう岩製のレリーフなどもあるという。

■「世界首都」の芸術がたどった数奇な運命

 ヒトラーはベルリン(Berlin)を世界首都「ゲルマニア(Germania)」へと変革しようと構想し、ナチス最盛期に多数のブロンズや大理石の芸術作品を制作させた。今回見つかった「歩く馬」の像もその一つで、ヒトラーは官邸の執務室の窓からよく眺めていたという。

 第2次世界大戦終盤にベルリンが空襲されるようになると、「歩く馬」像はベルリン東部の町に疎開させられた。1950年ごろ、東ドイツ領内となっていた近隣の町エーベルスワルデ(Eberswalde)で当時のソビエト連邦軍の運動場に設置され、その後38年間放置されていた。独大衆紙ビルト(Bild)によると、金色に塗られた馬の像には銃弾の跡が残り、尾は2対とも破壊された後につたない修復が施されていた。子どもたちが時々またがって遊んでいたという。

 1989年、ある美術史家がこの像に関する記事を新聞に発表したが、数週間後に像は2体とも行方が分からなくなった。財政的に厳しかった末期の東ドイツ政権によって売却されたとみられている。

 ビルト紙によれば、摘発された密売グループは近年、闇市場で2体の像に400万ユーロ(約5億4000万円)近い値を付けていたという。(c)AFP