【5月11日 AFP】南米コロンビアのフアン・マヌエル・サントス(Juan Manuel Santos)大統領は9日、コカインの原料となるコカの栽培農地への除草剤散布で使われている除草剤の使用を禁じる意向であることを明らかにした。最近、除草剤に含まれる薬品に発がん性があることが判明したため、コロンビアでは、米国が支援する麻薬戦争で自国の土地に除草剤を撒き続けるか、健康被害への影響を考慮して散布を中止するかで意見が分かれていた。

 サントス大統領は同日、「来週の関連委員会で当局に除草剤を使用しないよう求める予定だ」と述べ、「保険当局による調査で、人体へのリスクが確認された」ことを明らかにした。しかし、その一方でコロンビア政府が違法薬物への取り締まりを緩める訳ではないとも述べている。

 1994年から行われている除草剤の空中散布をめぐっては、米国政府から莫大な資金援助を得ており、コロンビア政府はこのプロジェクトを「聖域」として扱ってきた。事実、50年にわたる同国の内戦を激化させてきた要因でもあるコカインの生産量をめぐっては、除草剤の散布により減少しているという。散布されている除草剤は「ラウンドアップ(Roundup)」の商品名で一般に流通しているものだ。

 しかし、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は最近、除草剤に含まれるグリホサートが「発がん性」である可能性を指摘。そのため、サントス政権内では麻薬戦争継続の是非で意見が割れていた。アレハンドロ・ガビリア(Alejandro Gaviria)保健相は、除草剤の散布を「即座に停止」すべきだとしたが、一方のフアン・カルロス・ピンソン・ブエノ(Juan Carlos Pinzon Bueno)国防相は反対の立場であり、散布をやめれば「犯罪者たちを優位に立たせることになる」と主張した。

 コロンビアでは、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(Revolutionary Armed Forces of ColombiaFARC)」や「民族解放軍(ELN)」との内戦および麻薬密輸への対策として、90年代に米国との軍事・経済協力プログラム「プラン・コロンビア」を立ち上げた。1999年以降、米国からの資金援助は90億ドル(約1兆800億円)に上っている。

 こうした意見の対立が浮上するなか、米国のトニー・ブリンケン(Tony Blinken)国務副長官がコロンビアを訪問。ブリンケン氏はコロンビアでの除草剤の空中散布について「違法栽培と戦う最も効率的な方法」としてこれまで通り継続するよう求めた。除草剤の空中散布は、同プランの中核を担うものだ。

 治安および麻薬の研究する同国機関「Center for Research on Security and Drugs」のダニエル・メヒア(Daniel Mejia)代表は、グリホサートを含む除草剤の使用停止を政府に訴えていた。AFPとの取材で同代表は「調査を行った結果、皮膚や器官系の疾患、流産を引き起こすことが分かった」と述べ、また空中散布は、対象地域の3%ほどにしか効果がないことを指摘した。

 反対に空中散布には大きな効果があると主張する声も上がっていた。国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and CrimeUNODC)によると、コロンビアのコカ畑は2001年の12万ヘクタールから2013年には4万8000ヘクタールにまで減っているとされ、同プランが奏功している証拠だといういうのだ。

 FARCとコロンビア政府は2012年から和平交渉を継続しており、昨年5月には代替作物の栽培支援や、自発的にコカ畑を放棄した農家への助成金給付などによって麻薬を根絶していくことでひとまず合意に達している。しかし、合意内容がこのまま維持されるかは不透明のままだ。(c)AFP/Philippe ZYGEL