カンボジアで無免許医師が信頼される理由
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【4月25日 AFP】カンボジアの共産主義勢力ポル・ポト派(クメールルージュ、Khmer Rouge)の兵士だったケン・モン(Ken Mon)さん(55)は、電話が鳴ると医療バッグをつかんでバイクに飛び乗り、貧しい村落へと急いだ。ただし、彼が医師としての正式な訓練を受けたことはない。
首都プノンペン(Phnom Penh)から南へ約70キロ、コンポンスプー(Kampong Speu)州の貧しい村民のような大勢の人々に医療を提供するのは、モンさんのような「自称医師」たちだけだ。でこぼこ道をおよそ10分。モンさんは腹痛を訴えていた27歳の男性の家に着くと、診察をして「胃に空気がたまっていますね」といい、胃酸を中和する薬を渡した。
モンさんのように医師免許を持たずに患者を診る「医師」は、カンボジア全土に何百人といる。カンボジアの医療制度は、1970年代の残虐なポル・ポト政権下で解体されて以来、いまだ包括的な公的制度が確立されていない。世界保健機関(WHO)の2012年の調査によれば、カンボジア国民の70%が、薬局や無免許医師、「クル・クメール」と呼ばれる伝統医療の専門家といった民間セクターから医療を受けている。
しかし、昨年11月に西部の田舎町でHIVウイルスの集団感染が起き、無免許医師らは厳しく調査された。当局は、感染の原因は無免許医師による注射針と注射器の使い回しだとして、この医師を殺人罪で起訴した。事件を受けて、カンボジア政府は無免許医師の摘発を誓った。
だが問題は、医師免許のある医師が地方部への配属を好まないことや、知識階級を虐殺したポル・ポト派によって多数の医師も殺され、その負の遺産から今も人材が不足したままなことだ。世界銀行(World Bank)によれば、カンボジアでは人口10万人当たりの医師の数がアフガニスタンと同程度で、わずか0.2人。同じ数字は同様に貧しいミャンマーでも0.4人、フランスでは3.2人だ。