自動車メーカーが取り組む「香りの誘惑」、販促の新分野
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【3月8日 AFP】香りが良いというだけでは自動車を売る決め手にならないだろうが、メーカーの間には自社の車の魅力を高めて差別化を図るため、嗅覚に訴えようとする動きがみられる。
今月3日に開幕したジュネーブ国際自動車ショー(Geneva International Motor Show)では、車体の優雅な曲線やハンドルを包む皮革の柔らかさ、ドアを閉める際の静かな音など、人々の感覚を刺激する要素があふれているが、メーカー各社は洗練された独自の新たな「芳香剤」を幅広く投入し、顧客を満足させることにも意欲を示している。
「歩み寄って車を見る時、デザインは非常に重要な要素だが、車内に入って真っ先に認識するのは良くも悪しくもにおいだ」と、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)で車内換気を担当するハルトムート・コバックス(Hartmut Kovacs)氏はAFPに語った。
嗅覚に関する著書のある人類学者・哲学者のアニック・ルゲレ(Annick Le Guerer)氏はAFPに対し、「嗅覚は、人間の脳の記憶、情動、感情を司る部分とつながりがある」と語った。 「自分の人生で楽しかったときを思い起こさせる香りが車内にあれば、より長くそこにいたいという欲求が無意識のうちに刺激される」
とはいえ、PSAプジョー・シトロエン(PSA Peugeot Citroen)で車内空気品質の改善に取り組んでいるエマニュエル・ブーダール(Emmanuel Boudard)氏は、「顧客に車の購入を促す香りはまだ特定されていない」と認めた。
反対に「においが強すぎると快適レベルも下がる」ことが研究で確認されていると、PSAでこの問題を担当するジュリエット・カタラロ(Juliette Quatararo)氏は指摘する。 実際のところ、車内の香りに関する研究の多くは、車内のにおいをきつすぎず、心地良いものにすることを目的としたものだ。匂いの「性質」が何より肝心だとするカタラロ氏は、PSAがプラスチックや人工皮革の臭いを抑える取り組みを行っていると説明し、「悪臭の原因となる物質の使用を禁止している」と述べた。
PSAは10年前に発売した乗用車「シトロエンC4( Citroen C4)」で、フランスにおける車内の香りのカスタマイズに先鞭をつけた。同社は来年、新しい芳香剤のディスペンサーを発表する計画だ。
PSAのブーダール氏は、高級車部門における同社の地位強化策として、香りの機能を強化するために、香水の都とされる南仏グラース(Grasse)の調香師らと提携して数々の「ウッディ」な香りを開発中だと明らかにした。
ただ、香りの好みは非常に主観的なため、嗅覚を刺激するのは一筋縄ではいかない課題だ。ルゲレ氏は、「良い香りか悪臭かについて絶対的な合意は存在しない」と指摘した。(c)AFP/Tangi QUEMENER