「シェアリング・エコノミー」がもたらす変革と反発
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【3月5日 AFP】自分の車で知らない人を希望の場所まで送り届け、他人の犬の世話をし、空き部屋を誰かに貸し、誰かのために料理をする──これはどれもインターネットを活用した「シェアリング・エコノミー(共有型経済)」の例だ。
シェアリング・エコノミーは効率性と柔軟性を高めることで、経済すべてのセクターに変革をもたらしている。専用アプリを活用した配車サービス「ウーバー(Uber)」や空き部屋の短期レンタル仲介サービス「エアビーアンドビー(Airbnb)」などがその代表格。これらのサービスは急速な広がりをみせ、既存の経済モデルを根底から覆した。だが、その一方で、安全性や消費者保護、労働者の権利といった面で規制を免れているとの批判も高まっている。
シェアリング・エコノミーについて、一部のエコノミストは、活用されていないリソースを生かすことで多くのメリットをもたらすことができると指摘する。ジョージ・メイソン大学(George Mason University)の専門家が行った調査によると、革新や選択肢の拡充、サービスの差別化、より適正な価格、サービスの質の向上を通じて、シェアリング・エコノミーは消費者利益を高めることが可能だという。
シェアリング・エコノミーには明確に決められた定義はないが、食品などの当日配達サービス「インスタカート(Instacart)」や「ポストメイツ(Postmates)」、近所の人から30分以内に必要な物品を借りることができる「ピアバイ(Peerby)」、犬を預かってくれる人を探す「ドッグバケイ(DogVacay)」なども、これに該当するといわれている。
コンサルタント会社プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers、PwC)の推計では、シェアリング・エコノミーにおける5つの市場(金融、人材、宿泊施設、運輸、音楽やビデオの配信)の規模は、現在の150億ドル(約1兆8000億円)から、2025年までに3350億ドル(約40兆1000億円)へと成長する見通しだ。
配車サービス「ウーバー」は世界54か国、200都市で事業展開し、企業価値は400億ドル(約4兆8000億円)に膨んだが、順風満帆というわけではない。ウーバーや「リフト(Lyft)」、「サイドカー(Sidecar)」といった配車サービスは、既存のタクシー業に求められる免許や安全面、保険などの条件に縛られずに事業を行っているため、これが不公平な競争につながっているとして、タクシー業界から猛烈な抗議を受けている。
空き部屋の賃貸仲介サービス「エアビーアンドビー」もホテル業界から同様の批判を受けており、Airbnbは一部地域での宿泊税の徴収などで対応に乗り出した。
一方、労働の観点からみると、シェアリング・エコノミーを通じて、より多くの人たちに起業家への道が開かれると考えられている向きもある。米プリンストン大学(Princeton University)のエコノミスト、アラン・クルーガー(Alan Kreuger)氏らが行った調査によると、米国のUber専属ドライバーの賃金は、従来のタクシードライバーに比べ、1時間当たり6ドル(約720円)ほど多く、専属ドライバーはUberとの取り決めにおおむね満足しているという。ただ、Uber専属ドライバーの報酬からは諸費用として一定の額が差し引かれるため、単純に比較することは難しいようだ。
米経済政策研究センター(Center for Economic and Policy Research)のエコノミスト、ディーン・ベーカー(Dean Baker)氏は、シェアリング・エコノミーが提供する「空き時間にできる小遣い稼ぎ」は素晴らしいこととしながらも、フルタイムで働いた場合に得られる恩恵には遠く及ばずと指摘する。「もし事故を起こした場合にはどうなるだろう?労働災害補償は適応されるのだろうか」と例を挙げて説明した。
ベーカー氏はまた、シェアリング・エコノミーに規制やコストを科すことで、公平性は増すが、提供業者の利益性は低下するとも指摘。「将来的には、提供業者が妥当な規制を受け入れるか、業界からの撤退を余儀なくされるかの選択を迫られるだろう」と述べている。(c)AFP/Rob Lever