【2月16日 AFP】デンマークの首都コペンハーゲン(Copenhagen)で行われていた、イスラム教と表現の自由に関する討論会での銃撃事件で、イスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)を犬として描いた風刺画で世界的に有名な漫画家のラーシュ・ビルクス(Lars Vilks)氏(68)は、無傷で事件現場を後にしている──。

 この襲撃事件では、55歳の男性が死亡、警官3人が負傷した。事件発生当時、ビルクス氏はちょうど発言中だったという。スウェーデンの新聞で07年に、表現の自由の重要性に関する論説とともにビルクス氏の風刺画が発表されて以来、同氏は暗殺未遂1件の他、複数の襲撃を生き延びてきたという。

 ビルクス氏は現在、警察の保護下で暮らしている。デンマークの治安当局は14日の事件について「計画されたもの」と示唆しているが、警察は特定の人物が標的にされたものかどうかは不明としている。

 今回の事件は、同氏をめぐる過去の数々の事象を思い起こさせる。14年1月には「ジハード・ジェーン(Jihad Jane)」の異名を持ち、ビルクス氏殺害を請け負ったとされる米国人、コリーン・ラローズ(Colleen LaRose)受刑者に10年の実刑判決が下っている。ラローズ受刑者は欧州へと渡り、未遂に終わった暗殺を実行するため、インターネット上でビルクス氏の動向を追っていたとされる。

 10年5月には、ビルクス氏の自宅に火炎瓶が投げられる事件があった。この事件では、現場から所持品が見つかったとして、スウェーデン国籍を持つコソボ系の兄弟が逮捕され、禁錮刑に処されている。当時ビルクス氏は留守だった上、火は家の外部を焦がしただけだった。

 同じ週、スウェーデンのウプサラ大学(Uppsala University)での講演中に、襲撃をほのめかす群衆に罵声を浴びせられ、男に頭突きをされていた。このときには、ムハンマドに扮した同性愛者の男性を描いたイラン人監督の映画を上映していたとされる。

 同年にはアイルランドでもビルクス氏暗殺を計画したとして7人のイスラム教徒が逮捕されている。国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系のあるグループは、ビルクス氏の「首」に10万ドル(約1200万円)の懸賞金をかけていた。

 翌11年9月には、スウェーデン南西部イエーテボリ(Gothenburg)の芸術フェアでビルクス氏を殺害する計画を企てていたとして男4人が起訴されている。

 ビルクス氏は10年にAFPとのインタビューで「冷静を保つよう努めている。私をつけ回している者たちはおそらく準備不足なんだろう。つまりアマチュアだ」と述べていた。

 さらに「私は狂信的な人種差別主義者じゃないし、政治的な立場もない。限界を試そうとするアーティストなんだ」と前置きした上で「表現の自由とイスラムやイスラム教徒について語りたいと思うときに、議論を生じさせるに十分なほど挑発的で超越したものを持てる真の立場を確保することが、非常に重要だと思う」と語った。(c)AFP/Hugues HONORÉ