【2月11日 AFP】大銀行のIT担当だったエルベ・ファルチアニ(Herve Falciani)容疑者(43)は、英金融大手HSBCによる富裕層顧客の脱税ほう助を示す多数の文書を持ち出して以来、「英雄」と呼ばれたり「泥棒」と呼ばれたりしている。

「彼は勇敢だ。動機は何であれ、われわれはファルチアニ氏の行動を高く評価する」と語るのは、フランスの反脱税組織アンチコー(Anticor)のエリック・アルト(Eric Alt)副代表だ。

 しかしスイス当局は、ファルチアニ容疑者をデータ窃盗の疑いで起訴している。同容疑者が持ち出した文書は「スイスリークス(SwissLeaks)」と呼ばれる暴露の根拠となった。一連の文書はHSBCのプライベートバンキング部門が、200か国を超える国々の顧客に脱税をほう助していたことを示すもので、対象口座の残高総額は1190億ドル(約14兆円)に上るという。

■ジュネーブへの異動が人生の大転機

 ファルチアニ容疑者の人生はこれまでそれほど複雑なものではなかったが、今回の一件はスパイ小説に値するだろうと仏紙ルモンド(Le Monde)のジャーナリスト、ジェラール・ダベ(Gerard Davet)氏はいう。

 ファルチアニ容疑者は1990年代にモナコのカジノで働き始めた。2000年にHSBCのIT担当となったが、人生の大きな転機は06年、スイス・ジュネーブ(Geneva)のオフィスへの異動だった。今や「脱税のスノーデン」「富裕層を震撼させる男」などとあだ名されるファルチアニ容疑者はここで、暗号化された顧客情報の巨大なデータベースへのアクセスを獲得した。

 07年には12万人を超える顧客のリストを揃え、08年頃にはこのデータを売却する計画とともに、愛人を連れ、レバノンへ向かった。スイス当局はこれを「キャッシュ・イン(現金化)」のため、と表現している。しかし、疑わしく思ったレバノンの銀行家たちは、出所の怪しい顧客リストの購入に関心を示さなかった。そればかりか、そのうちの少なくとも1人がファルチアニ容疑者の行動について、スイスの銀行家たちに警告した。