ブレイクスルーではこの映画のために、PAWS (Painted Animation Work Stations)と呼ばれる独自の技術も生み出した。グラフィック・デザイナーのバルトス・ドルゼフスキー(Bartosz Dluzewski)氏は「私たちは最新のデジタル技術を取り入れたこの手法を用いて、要するにゴッホを演じることで、ゴッホになり切ろうとしているんだ」と話す。

 冬は午後3時には暗くなり始めるグダニスクは、ゴッホの創作欲をかき立てた南仏の強い日差しとはほど遠いが「うちの画家たちには柔軟性がある。ハロゲン照明に囲まれていたって、プロバンスの陽光を再現できるんだ」とロマンさんは笑顔で話した。

■キャンバスが映画のフレームに

 映画『Loving Vincent』では、仏南部の街アルル(Arles)で暮らし、ゴッホの肖像画に多くの影響を与えたアルマン・ルーラン(Armand Roulin)の一家など、ゴッホの身近な人々の目を通して話が進んでいく。

 制作に当たってはまず、俳優たちが演じるシーンをポーランド西部のヴロツラフ(Wroclaw)にあるスタジオで撮影する。そのフィルムの画像をキャンバス上に投影してトレースした後、それをなぞって絵の具を使い後期印象派のスタイルで油画を描いていく。そして1フレーム分が完成するごとにキャンバスの絵を写真で撮影する。撮影し終わると、そのまま同じキャンバスの上に、今度は次のフレームの絵を少しだけずらして描く。このときは、川面に浮かぶボートを数ミリだけずらして描いていた。

 グラフィック・デザイナーのドルゼフスキー氏は「私たちが用いるPAWS という技術は、つまりフィルムがキャンバスに変わる。デジタル画像が絵画に変換されていくものだ」と説明する。

 絵画制作部門の責任者、マルレナ・ヨペックミシアク(Marlena Jopyk-Misiak)氏によれば、映画中に登場するゴッホの作品は100点を越える。「私たちは(ゴッホの作品を)正確に写し取るよう心掛けているが、撮影のために変更したり拡大したりといった脚色を施す必要性はたびたび出てくる。オリジナルには登場しない要素を加えることもある。また有名なゴッホの自画像の画風で、彼自身は描いたことがなかった場面を描くことも思い立った」という。最後のシーンはその一つだという。

 さらに映画では、ゴッホが書いた800通に及ぶ手紙を通して、1890年7月に仏パリ(Paris)郊外のオーヴェル・シュル・オワーズ(Auvers-sur-Oise)で生涯を終えたゴッホの死にまつわる謎を検証する。ボビット氏は「ゴッホの死の裏に隠された真相を知っている者は誰もいないと思う。本当に自殺なのか、それとも偶発的な事故で撃たれたのか……。私たちがやろうとしていることは、さまざまな仮説を検討し、一つ一つ信ぴょう性を調べ、観客に判断を委ねるということだ」と語った。(c)AFP/Maja Czarnecka