【1月21日 AFP】米ホワイトハウス(White House)のあるスタッフが、米上院議員のパトリック・レーヒー(Patrick Leahy)氏と電話を繋いだ際、電話口から聞こえた大きな音に、ウォーレン・クリストファー(Warren Christopher)国務長官は「ラジオのボリュームを下げてくれ」と思わずもらした──。

 これは約20年前、コンサート会場を訪れていたレーヒー氏と当時の国務長官だったクリストファー氏との間のやり取りだ。この時のステージには、米人気バンド「グレイトフル・デッド(Grateful Dead)」の前座を務めた英歌手スティング(Sting)が立っていた。

 レーヒー氏がグレイトフル・デッドのコンサート会場にいることを知ったクリストファー国務長官は、大統領と話す時間はあるか、それともコンサートで頭がいっぱいか?と尋ねたという。「(ビル・)クリントン(Bill Clinton)大統領だよ。そっちに行って一緒に楽しみたいって言っていた」と笑いながら当時について話した。

 グレイトフル・デッドは今週、存命中のメンバーで再結成し、7月3日~5日の3日間、恐らく最後となるコンサートをシカゴ(Chicago)で開催すると発表したばかり。クリントン元大統領とレーヒー氏はともに、1960年代に一躍名を馳せたこのロックバンドの大ファンだ。

 結成50周年という節目の年での再結成についてレーヒー氏は、「素晴らしいことだね。うれしいよ」とAFPによる電話取材で話した。

 グレイトフル・デッドはブルースやフォークなどさまざまなジャンルの音楽を織り交ぜ、ライブでは重厚な即興演奏を披露するバンドだ。音楽業界における従来の意味でのヒット曲はほとんどないが、熱狂的な「デッドヘッド(Deadhead)」と呼ばれるファンも多かった。ヒッピー文化全盛期には、ライブ会場で録音した音源を盛んに取り引きするなど、ファンたちの盛り上がり方は、ある意味宗教的でもあった。

 当時ファンだった著名人には、アル・ゴア(Al Gore)元米副大統領と妻のティッパー(Tipper Gore)さん、アップル(Apple)社の共同創業者だった故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏らが名を連ねている。

 今回のコンサートは、創設メンバーの一人でバンドのリーダーを務めたジェリー・ガルシア(Jerry Garcia)が、1995年7月に生涯最後の演奏をしたアメリカンフットボールスタジアム「ソルジャー・フィールド(Soldier Field)」で開催される。この約1か月後にガルシアは他界した。

 7月のコンサートには、ガルシア亡き後のバンドメンバーに加えて、グレイトフル・デッドと同様のファン層を開拓してきた米ジャムバンド「フィッシュ(Phish)」のボーカル兼ギターのトレイ・アナスタシオ(Trey Anastasio)やブルース・ホーンズビー(Bruce Hornsby)らが参加するという。

 フィッシュのルーツである米バーモント(Vermont)州出身のレーヒー氏は「素晴らしいことだ。もしグレイトフル・デッドの伝説を引き継ぐバンドがこの国に存在するとしたら、それはフィッシュだろうからね」と話し、アナスタシオの参加を歓迎した。

 レーヒー氏は、両方のバンドからチケットをオファーされていることを明らかにしたが、議会の日程によってはライブ会場に足を運ぶことが難しい可能性があると述べている。

 グレイトフル・デッドのファンであるために、保守派からやり玉に挙げられることもしばしばあったというレーヒー氏。同バンドのコンサートでは麻薬の使用が常態化しているため、薬物に対する姿勢が甘いのではないかというのがその理由だ。こうした批判の声に対しレーヒー氏は「私はビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)の絵が好きだが、自分の耳を切るつもりはないよ」と答えている。(c)AFP/Shaun TANDON