【12月18日 AFP】英ロンドン(London)の地下では毎日、下水道作業員たちが下水管にこびりついた腐敗した食用油の塊を除去するという陰気な闘いを続けている。下水管を詰まらせる巨大な廃油の塊は氷山(アイスバーグ)になぞらえて「ファットバーグ」と呼ばれ、クリスマスシーズンには台所から排出される50メートルプール2つ分にもなる大量の七面鳥の油によって、さらに状況が悪化する。

 ロンドン市民の多くは、食卓のわずか数メートル下で、自分たちの日常の振る舞いがファットバーグを巨大化させ、自宅に汚水が逆流してくる危険を高めていることには気付いていない。

 ファットバーグは食用廃油がウェットティッシュや生理用ナプキン、コンドームなどありとあらゆるゴミと一緒に固まったものだ。ロンドンとイングランド南東部に張り巡らされた総全長およそ6万9000キロの下水管では、ファットバーグをめぐる問題が深刻化の一途をたどっている。

 だが、英首相官邸のあるダウニング街(Downing Street)や観光名所のトラファルガー広場(Trafalgar Square)にほど近いロンドン中心部では、ファットバーグに対する反撃ののろしが上がった。

■地下にあるもう1つのロンドン

 ハエや虫がうごめく密閉された漆黒の地下世界を、腐敗した油や汚物を避けながら歩き回ると聞くと、多くの人は地獄を思い浮かべるだろう。だが、その場所こそ、英水道大手テムズ・ウォーター(Thames Water)で現場監督を務めるビンス・ミニーさん(54)が24年間働いてきた仕事場だ。

 長靴に白い防護服姿のミニーさんは、小さなマンホールからはしごを伝って気味の悪いロンドンの暗部へと降りていく。「状況は確実に悪くなっている。以前はファットバーグを目にしなかった下水管でも見つかるようになった」

 ロンドンの心臓部を走る2本の下水道の合流地点で、腰の高さまで汚水に浸かりながらAFPの取材に応じたミニーさんによれば、問題は排せつ物が下水にたれ流れされることではなく、その上に凝固した油が分厚い層を作ってしまうことだ。

「こんなに不愉快なもの、まず他にお目にかかれないよ。こいつに比べたら下痢のほうがずっとましだ」。太ももを取り囲む油の塊をシャベルで叩きながら、ミニーさんは言った。