【12月4日 AFP】アンデス(Andes)山脈の熱帯氷河は、融解が憂慮すべき速度で進行しており、それを食い止めるための手立てを講じる間もなくその多くが消失してしまうとの懸念を科学者らにもたらしている。──。

 エクアドルからボリビア、コロンビア、ペルーにわたって点在するこの熱帯氷河をめぐり、現在ペルーの首都リマ(Lima)で開催されている国連(UN)の気候変動会議で詳細な話し合いが行われている。世界195か国が参加する同会議の目的は、地球に温暖化をもたらす炭素ガス排出量を削減するための国際的な取り決めの枠組みを打ち出すことだ。

 熱帯氷河の融解は、アンデス地方の淡水の供給を脅かす上、海面上昇の原因となる恐れもある。

 エクアドルでこの現象の調査を初めて行った研究者の一人、国立気象水文研究所(INAMHI)のボリバル・カセレス(Bolivar Caceres)氏は長年にわたり、雪深い7つの火山の上に位置する同国の氷河が後退する様子を観察してきた。

 1980年代末当時、エクアドルには92平方キロに及ぶ氷河が存在したが、この面積は2010年までに42平方キロに縮小した。またカセレス氏によると、今年はさらに38平方キロにまで減少するとみられているという。ボリビア、コロンビア、ペルーでも、同様の現象が起きている。

 氷河融解の原因の少なくとも一部は、自然のサイクルだと科学者らは説明する。だがその一方で、人為的原因による地球温暖化が事態をさらに悪化させていることを示す証拠も増えているという。

「まだ分かっていないことは、人間の活動が氷河の融解をどの程度加速させてきたかということだ」とカセレス氏は指摘する。

■気候変動の「見張り番」

 20世紀初めから現在までに世界気温が0.8度上昇したことは、世界中の氷河に影響を及している。そのため気象学者らは、氷床の融解を地球温暖化の「見張り番」と呼ぶ。

 フランスに本局がある開発研究局(Institute for Development ResearchIRD)のオリビエ・ダングルズ(Olivier Dangles)エクアドル支局長は「最悪の影響は極地方で起きているが、熱帯地方にある山岳地帯での影響も甚大だ」と語る。

 例えばボリビアでは、チャカルタヤ(Chacaltaya)山にかつて存在した万年雪は、4年前に消失した。同山にはかつて、標高5400メートルの世界最高所のスキー場があった。

 他方ペルーでも、氷河が1970年以降で40%あまり縮小しており、これが原因で新たな湖沼地が1000か所近く形成されていると同国の水資源当局が発表している。

 この現象を受け、ペルーの先住民らは古くから行われてきたインカ(Inca)帝国の祭り「コイヨリッティ(Qoyllur Rit'i)」の内容を、状況に合わせて変更せざるを得なくなった。祭りではこれまで、何世代にわたり、参加者が氷河に登って氷の塊を持ち帰る行事が続けられてきた。

 IRDが資金を提供した2011年の研究によると、これらの氷河の融解は、海面を24センチ上昇させる上、河川の容積と構成を変化させる可能性があるという。さらには、生態系で重要な位置を占めるカエルやハエなど、この環境に生息する生物種も絶滅の危機にさらされる。

 ダングルズ支局長は「氷河が1つ融解するのは、まるで画家のパレットから色が1色失われるようなもの。この場合、画家は自然だ」と述べ、「それぞれの色は、かけがえのない生態系である」と続けた。(c)AFP/Héctor VELASCO