【12月2日 AFP】中国では近年、実用的な価値は気にせずに飛行機やヘリコプターなどを自ら作ってしまうアマチュア発明家たちが台頭している。「農家のダビンチ」と称され、戦車まで手作りする者もいるほどだ。確立した個を持つ彼らは、数十年前の集団農業時代の農民とは対照的な存在だ。

 同国中部の湖北(Hubei)省丹江口(Danjiangkou)市李家山(Lijiashan)村で、養鶏を営む譚勇(Tan Yong)さん(44)も、そんな「農家のダビンチ」の一人で、9か月を費やし、独力で重さ2トンの潜水艇を完成させた。

 中国で人気のアニメキャラクターにちなんで「喜洋洋」号と名づけられたオレンジ色の潜水艇の動力源は自動車用のバッテリー5台。約45分間、水深8メートルまで潜航できるという。

 譚さんは1968年、ビートルズ(Beatles)がヒット曲「イエロー・サブマリン(Yellow Submarine)」を発表した2か月後に生まれた。だが、貧困がはびこる田舎で育ち、この曲のことは全く知らないそうだ。

 譚さんの電動潜水艇の船内は、壁に手書きの操作手順表がテープで貼られ、計測機器や空気圧の目盛り盤も取り付けられている。その下のプラスチック製パイプは、台所の流しの下でよく見かけるものだ。たくさん並んだヒューズボックスからは電気ケーブルが飛び出し、床にはガス缶が据え付けられている。

「これが潜ったり浮かんだりするための空気ポンプだよ」と説明する譚さんは、「脱出装置の類は、何も取り付けてないんだ」と事もなげに話す。

■全て独学、尽きない製作意欲

 養鶏で生計を立てる譚さんが潜水艇の建造を思い立ったのは2年前。今年3月には試作品の進水にこぎつけた。「こういった技術を学校で学んだことはないよ。全て自分の中のイメージを基にしているんだ」

 とはいえ、譚さんの水中旅行はいつも順調とは限らない。以前、水深8メートルまで潜航した際には恐怖の瞬間を経験している。「鉄板に大きな水圧がかかってペットボトルのように押しつぶされてしまった。本当にひやひやした。それからバーンという大きな音がした」

 それでも譚さんは「水深10メートルまでは大丈夫だと保証するよ。それ以上は分からないけれどね」と話した。

 譚さんの作業場は両親が暮らす古い母屋の脇にある小屋だ。一人占めして使っている小屋の土間には金属片が散乱している。

 潜水艇の製作費用はわずか3万元(約58万円)だったそうだが、それでも多くの時間を割いたせいで結婚生活が危機に瀕したと認める。

「もし別の潜水艇を造れたら、問題なく30~50メートルは潜れるよ。もう少しだけ鉄板を厚くすればいいんだからね」と意気込む譚さん。だが8歳になる息子のジュンフェン君は疑わしそうだ。「僕たち家族はあまりお金がないし、お父さんが全部使ってしまうんだ。だからもう一つ造るなんて考えられないよ」と話している。(c)AFP/Tom HANCOCK