【11月21日 AFP】髪の毛がまったく生えていなかったいとこが、ある日、ふさふさの頭になって戻ってきたのを見て、パキスタン人のモハマド・シャヒードさんは目の色を変えた。「植毛手術から帰って来たいとこを見て、ショックだった。これは自分もやらなくちゃと思ったね。髪の毛は、社会に対する僕たちの武器のようなものだ」

 パキスタン北西部ペシャワル(Peshawar)。隣国アフガニスタンとの交易の玄関であり、そのアフガニスタンの旧支配勢力で反政府活動を続けるタリバン(Taliban)の国外潜伏先でもあるこの都市には、植毛手術でふさふさの頭になった笑顔の有名人が描かれた巨大な広告看板が通りに並んでる。

 パキスタンでは毛髪は男らしさと同義語ともいえる。タリバンの戦闘員でさえもクリームを買って、長く伸ばした髪やあごひげに艶を与えようとするくらいだ。それゆえ、髪がない男性には厳しい状況で、ひどく侮辱的な言葉で呼ばれることもある。その言葉は、欧米で「はげ」と呼ばれるよりもずっと屈辱度が高いという。

 状況が一変したのは2007年の終わりだった。99年にクーデターで国外追放されたナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)首相が8年の亡命生活から帰国すると、毛のなかった頭に豊かな毛髪をたたえていたのだ。ペシャワルでクリニックを営むファワド・アダミール医師は「シャリフ氏と弟のシャバズ・シャリフ(Shahbaz Sharif)氏(パンジャブ州知事)が植毛した後、植毛は非常に人気が出た。それまでは皆、植毛したら、がんになるとか脳が感染症にかかるなどといって怖がっていた」と語った。

 現在パキスタン全土には計120近い植毛クリニックがあるという。施術費は通常400~1000ドル(4万7000円~11万7000円)で、高級クリニックだと最高6000ドル(約70万円)ほどかかる。欧米での費用に比べれば安いが、パキスタン人の多くには手の出ない値段だ。

 安さゆえ外国から訪れて施術を受ける人も多い。特にパキスタンやアフガニスタンから離散し、友人や親戚に会いに戻ってきた人々だ。ペシャワルで植毛クリニックの一つを訪れていたデンマークで調理師をしているというマイハンさんは、「ヨーロッパやカナダ、オーストラリアや米国だったら女の子たちは気にしないけど、ここでは男は髪が長くなくちゃだめなんだ」と語った。

 心配の種は毛髪だけではない。アシフ・シャー医師は、あごひげの植毛も多く引き受けていると語った。豊かなあごひげで信心深いイスラム教徒であることを示したいと願う患者たちへだ。

 前述のクリニックのアダミール医師は、タリバンの司令官の息子が来院したときのことを思い浮かべていう。その息子は、タリバンの同僚たちがふさふさとしたひげを誇らしげに見せつける中で、自分はまばらにしか生えないあごひげに苛立ちを募らせていた。

 クリニックの医師は「ひげを伸ばすことはない。このひげが神があなたに与えたものなのだから」と声をかけたが、司令官の息子は「いや、預言者ムハンマド(Mohammed)のようなひげが欲しいんだ。彼に平安あれ」と言うので「われわれは施術に取りかかった。6か月後、彼は立派なひげをたくわえ、とても嬉しそうだった」という。(c)AFP/Sajjad TARAKZAI, Guillaume LAVALLÉE