【11月7日 AFP】開始から1か月以上が経過した香港(Hong Kong)の民主派デモに参加する若者らにとって、この期間は狭い自宅から抜け出て、過保護な親の目から逃れる良い息抜きにもなっているようだ。

 空間、静寂、そしてプライバシーが不足するこの人口密度の高い街では多くの若者が結婚して独立するよりも前に30代を迎える。高層化が進む集合住宅の高騰する家賃も香港での同居率を押し上げている。

 だがデモの中心地となっている政府庁舎前のキャンプでは、何千人もの若者たちが広い空間を謳歌している。アスファルトの上ではあるが、その無秩序に広がるテントの「街」は、勉強するエリアや恋人たちが夜遅くに歩き回ることのできるスペースを提供している。

 キャンプでは香港特有の野心的な文化は影をひそめ、どこかヒッピー的な雰囲気も漂っている。夜中にギターを奏でる音が聞こえたり、上空にはジョン・レノン(John Lennon)の「イマジン」の歌詞が書かれた横断幕がはためいたりしている。

 かつて物質主義だと非難された若者世代だが、今はごみをリサイクルしたり、「抗議」をテーマにアート作品を制作したりで日々忙しいようだ。

「デモが始まる前は、香港はお金にしか興味を示さない街だと思っていた。でも今は違う。夢に向かって共闘できることを体現できた」と、ワイヤーを使って民主派運動のシンボルである傘をかたどったキーホルダーを作りながら、22歳のジュディス・チャンさんは語った。

 しかし母と暮らす小さなアパートに帰ると、そこでは気まずい会話が交わされるという。親世代の多くは、デモに参加している子供たちが時間を無駄にしていると不満をかかえている。社会科学を専攻するチャンさんは、「母親は、政治は汚いものだと思っている。家に帰ってくるのは時々でいい。今はあまり居心地が良くないから」とその胸中を吐露した。

 香港の「年上の世代」は、貧困や中国本土からの迫害を乗り越え、次世代にはより良い生活をさせようと、働きづめの人生を送ってきた人々だ。彼らのなかには、子供や孫たちは本土よりは自由が認められている現状をありがたく思うべきだと考える人も多いという。

 このような考え方についてチャンさんは、「90年代に生まれた私たちは豊かな時代に育った愚か者だと思われている。楽な暮らしをしてきたために何も知らないとね」と述べる。

 デモに参加する若者らは、「政治にかまけるより、いい仕事に就職しろ」と親たちから口うるさく言われることにも苛立ちをみせている。24歳のジェフ・チュアさんは、「卒業して、就職して、家族をもって、家と車を買って、年を取って、寿命をまっとうしなさい」と両親からの「期待の言葉」を要約する。香港では昔から親が子に「干渉しすぎる」としながら、成人してからも同居を強いられることが親と子の間の軋轢を生んでいると主張した。

 ただ、この厳格な子育てが、デモ隊にみられる「行儀の良さ」の理由でもあるようだ。今回のデモではアルコールを目にすることがほとんど無い。このことについて参加者らは、遊ぶために集まっている訳ではなく、あくまで自由な選挙を求めるために活動しているとの自分たちの固い決意を示しているためと説明する。「これが欧州でのデモだったら、どれだけのビールが飲まれることか」とチュアさんは語った。(c)AFP/Katy Lee