【11月3日 AFP】米ニューポートでの1965年のライブで、エレキへの転向を宣言するかのようなパフォーマンスから約2年後、ボブ・ディラン(Bob Dylan)は、ニューヨーク(New York)州ウエスト・ソーガーティーズ(West Saugerties)の民家地下室で、これまで未公開だった、そして最も有名なレコーディングのひとつを行った。

 多作のシンガー・ソングライターは、1960年代を象徴する声として頭角を現したが、66年のオートバイ事故で活動休止を余儀なくされた。しかし、この不本意な休養期間中に製作された楽曲は、ディランのキャリアの中で最も評価が高かったもののひとつとなっている。

 そして、1967年にレコーディングされたこれらの楽曲は、ロック史上初の海賊版になった。タイトルの「グレート・ホワイト・ワンダー(Great White Wonder)」は、真っ白なレコードジャケットにちなんでつけられた名称だが、その後、ディラン自身のニックネームにもなった。

 それから半世紀近くが経過し、この時のレコーディングの全てが公開されることになった。CD6枚入りのボックスセット「The Basement Tapes Complete: The Bootleg Series, Volume 11」は、欧州では3日、北米では4日に発売される。

 このボックスセットには、ニューヨーク州ウエスト・ソーガーティーズにある通称「ビッグピンク(Big Pink)」と呼ばれる民家で行われたセッションからの音源全ての他、最近発見されたばかりの音源も含まれている。また、この中には、ディランが地下室でツアーバンドのザ・バンド(The Band)とともに、ピーター・ポール&マリー(Peter, Paul and Mary)から借りた楽器を使って演奏した多数の楽曲の複数のバージョンも収められている。

 同音源を使った、一部の楽曲は「The Basement Tapes」というタイトルで1975年にコロンビア・レコード(Columbia Records)から正式に発売されている。その中にはディラン未参加のザ・バンドの楽曲も含まれている。

 音楽市場の大きな変化を示すように、今回のボックスセットでは、コロンビアは違ったアプローチを取り入れた。年代順に並べられた138曲からは、不完全さとホームメード感がしっかりと伝わり、レーベル側も、これらCDが1967年のレコーディングであることを前面に押し出している。

 インターネット時代においては、コンサートの録音から流出したスタジオアルバムに至るまで、すべてが即座に入手可能となっている。無料で入手できる音楽が数多く存在するなか、多くのレーベルが、アーティストの初期の音源をコレクションとして発売する目的で、自社の保管室を探し回る傾向がより強くなっている。

 ボックスセットは、アーティストにとってのキャリアの集大成となる傾向にあるが、ディランは今後も精力的に音楽活動を継続するようだ。ボックスセットの封入物には、2015年に36枚目のスタジオアルバム「Shadows in the Night」を発表すると記されている。(c)AFP/Shaun Tandon